[河村瑞賢]1 江戸へ
[河村瑞賢]2 おこうこはいらんかね
[河村瑞賢]3 ものを売ろうとするからだめなんだ
[河村瑞賢]4 明暦の大火
の続きです
木曽へ
明暦の大火が過ぎて途方に暮れる
また一から出直しか
万が一の時のために、家の下に埋めてあった壺を掘り出す
十両と少し
若干の元手にはなりそうだが、果たして何をしようか
今、人々が一番困っているもの
水と食料
ただ、江戸周辺の農家では足元を見てくるだろう
利益を出すのは難しそうだ
あっ
自分のやってきた商売、材木じゃないか
江戸から離れた木曽ならば、まだ大火の情報は知らないだろう
雪で閉ざされ、今の季節は交通が遮断されている
そこに一番に行けさえすれば
命からがら、雪まみれで、何とか木曽に着く
此度は早急に木材の手配をせねばならず、
こちらに駆け付けてきた次第です
こんな時期にですか
江戸で大名家か大寺の大きな作事があるんですね
ええ、まあ、そんなところです
(まだ、大火の事は伝わっていないな)
それで、どれほど要る
ご都合がつくすべての木をお引き取りいたします
戯れ言もほどほどになされよ。
木曾全山の木を引き取りたいと申されるか
はい
うーむ
で、手付金はいかほど
(持ってきた十両を見せると)
話にならん
ところで、木曽全山の木材、いくらで買おうと言うのだ
仰せのままに
何をっ
木曾の木を一本残らず、こちらの言い値で買うというのか
馬鹿な。どこの世界に卸元の言い値で買う奴がいる
確かに商人たるもの、利を出さねば商いをする意味はありません。
しかしながら、産地と仲買人は持ちつ持たれつ。
山村様も暴利をむさぼるつもりはないはず
そうだ
山村様を男と見込んで、言い値で買うと申しました
(しばしの沈黙のあと、山村が膝を打った)
分かった
今年の相場値で売ろう
本当に伐採する木材を、すべて買い上げるのだな
男に二言はありません
ただし金を払った分しか運ばせぬぞ
商人たるもの、金は向こうからやってくるように仕向けねばなりません
この山里に、金を持った者どもが押し寄せてくると申すか
はい
約定書を取り交わした
飛ぶように
その後、5日目あたりから、商人が押し寄せてきた
全て、七兵衛に任せてあると聞き、やってくる
次々と取引を成立させ、山村に現金を支払った
山村は目を白黒させて驚く
さらに数日後、江戸で大火があったという情報がもたらされ
山村は悔しがったが
どんどん現金収入が増えていくので、悪い気はしない
七兵衛は、暴利を貪ろうとはしなかった。
客どうしを競り合わせて販売価格を釣り上げるようなことはせず、「上限の売値は仕入れ値の倍まで」という方針を貫いたのだ。
これにより交渉や駆け引きによる無駄な時間がなくなり、
それぞれの商取引が右から左へと流れるように進んでいった。
雪解け水が涸れ始める頃には、七兵衛は大金持ちになっていた。
江戸に戻って
私が驚いたのは、このあとです。
ここまでの話で、なるほど七兵衛はきさいに優れ、大金持ちになった、紀伊國屋文左衛門のような商売人なんだなと。
とはいえ、大きな意味では人の弱みにつけ込んで巨額の富を得たと言えなくもない。
ところが、違っていたんです。
材木商人たちの波が一段落すると、
七兵衛は川舟で尾張熱田まで下り、
もうけた金で買えるだけの米を買い付けた。
江戸へ戻ると、
その米で、粥施行(かゆせぎょう)を始めた
すなわち、七兵衛は得た巨万の富を、自分の懐に入れず
全て人々のために使った。
残してきた家族と再開。
ひしと抱き合ったが、やはり次男の兵之助は見つからなかったと言う
長男は粥施行を手伝うと、かってでた
連日、人々が押し寄せる
ところが被災者があまりにも多すぎた
とうとう、米が底をついた
集まった人たちは、粥がもらえないと分かると
罵詈雑言を七兵衛に浴びせるようになる
これで、粥施行とは笑わせる
名を売るためにやったんだろう
七兵衛はひたすら耐えて頭を下げ続けた。
数日後、七兵衛の元に米俵が届く
七兵衛が私欲を捨てて、人々のために頑張っていると聞いて
大阪の商人から届けられたもの
幕府から米の手配を頼まれた彼らは、
それを廻船に載せてくる際、
指定された量よりも多めに載せ、
それを無償で七兵衛に提供した
再び、粥施行が軌道に乗ってきた
大阪だけでなく、全国各地の商人から届くようになった
役人を介すると、せっかくの米も武士に回ってしまうので、
あえて七兵衛に送り付けてくる
食料事情は少しずつ改善されていった
ただ、江戸では次なる問題が生じていた。
この続きは、シリーズの次回でね
[人物]シリーズはこちら(少し下げてね)
































