[迷信] 満月の夜にはオオカミ男が出る

「科学で読み解く迷信・言い伝え」からのシリーズ、外国の迷信編

オオカミ男
体中を毛が覆い、月を見ると牙が生え、鋭い爪が伸びて、オオカミのような遠吠えが響く。
オオカミ男と聞いて多くの人が思い浮かべるのがこのイメージだろう。

一見ふつうの人間が満月の夜にオオカミに姿を変えるオオカミ男伝説は、ヨーロッパを中心に世界各地に残っている。
各地に同じような話が残っている以上は、その原因となる事象が存在すると考えるのが自然だが、そのひとつとして有力なのが先天性の多毛症という遺伝子の異常だ。

多毛症
多毛症は、体中の体毛が過剰に成長する症状を引き起こす。
遺伝子の異常によって起こる先天性の場合は治療法がいっさい存在しないが、発症はきわめてまれで、中世から現在まで50例ほどしか報告されていないという。
重度のものは腕や脚などに限らず、顔面すら体毛に覆われてしまうため、
遺伝子異常という概念がなかった時代には不吉なものとして虐げられたり、
サーカスなどで見世物とされていた。

多毛症のことを「オオカミ男症候群」と呼ぶこともあり、
オオカミ男伝説との関連は明らかだ。
わけもわからないままに多毛症の人を見た人々が、
そのイメージからオオカミ男伝説を生み出したことは想像に難くない。

狂犬病
さらに、オオカミ男伝説を生み出したもうひとつの原因と考えられるのが、狂犬病だ。

狂犬病は現在でも致死的な感染症で、
感染した犬は凶暴性を増し、人間などを襲う。
襲われたときはケガですんでも、傷口からウイルス感染することで、
救命は不可能という最悪の感染症のひとつだ。

犬のほかにもネコやアライグマ、コウモリ、キツネなどの動物が媒介するが、
人から人への感染のリスクはない。
2017年の時点でも、狂犬病は日本、オーストラリア、イギリス、ニュージーランドなど一部の国を除いた世界中で報告されている。
狂犬病を発症した人間は、光や音の刺激に過敏になって異常行動を示す。
興奮状態におちいって攻撃的になり、舌を出し、よだれを垂らして、
最後には歩行不能、昏睡状態になる。
その様子を目の当たりにした人々が、オオカミ男のイメージを作り上げたのだろう。

きわめてまれな先天性の多毛症に対して、狂犬病はけっして珍しい病気ではなかった。
1500年から1700年までに3万件もの目撃情報があるというオオカミ男の正体としては、
狂犬病にかかった人間のほうがしっくりくる。

オオカミ男伝説は、特異な遺伝子異常と身近な感染症の両方が合わさって作り上げられた伝説だと考えられるのだろう。

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