[岩宿] 相沢忠洋というひと
[岩宿] 一家団らん
[岩宿]3 少年の孤独
[岩宿]4 戦争とおばさん
[岩宿]5 さよなら
[岩宿]6 赤土の壁でみつけたもの
[岩宿]7 趣味から学問へ
[岩宿]8 研究所の設立
の続きです
ある社長のお誘い
研究所の設立後、2年ほどの実績の中で、どういう地層年代でどういう土器石器があるのかが
だいぶ整理できて来ていた
笠懸村の赤土の壁の石剥片はどことも一致しない独特のもの
ある会社の社長さんが訪ねてきた
うちに所属してうちの商品を販売して欲しい
遺跡歩きの時は自由に休んでいい
生活の安定は必要なんじゃないか
研究所を設立したと言っても収入があるわけではなく
相変わらず、自分の食いぶちは行商に頼っていた
熟慮の末、お世話になることにした
ついに
また笠懸村の赤土の壁に出かける
いつものように端から丁寧に観察しながら歩く
あっ
ついに見つけた
定形石器
今まで見つけていたのは石剥片
とうとう、完全な形の人間が作った石器を見つけた
二年あまり、探し続けてきた
いまだ土器を出土されていない、赤土(関東ローム層)の中に
人間が暮らしていた痕跡
しかも黒曜石
今でいうとダイヤモンドにも匹敵するであろう石を手に入れ
生活の利器として使用していたのだ
石剥片の発見で、ひょっとして、という疑問
その謎に対する回答のごときもの
大変なことになった
今までの考古学の常識をひっくり返すことになる
話すべきか
話さねばならない
でも、誰にどういう風に
芹沢先生
江坂先生のお宅にうかがっているとき、芹沢先生がちょうどおられた
話がずいぶん弾む
赤土の壁について、喉まで出かかったが、話せない
江坂先生は、おそらく今ライバル関係になってしまっているグループと繋がりがある
申し訳ないと思いつつ、江坂先生が席をはずされたとき
ちょっとだけ、石剥片について話を出してみた
後日、葉書が届く
差し支えなければ拝見させていただけませんか
芹沢先生の青山のお宅にうかがう
外国の雑誌と丁寧に見比べながら
「これはすごい、うりふたつだ」
たいへんなことだ
これが、日本の、関東の中に存在するということ
そして、関東ローム層の中に土器を伴わずに存在するということ
話は尽きず、やっと終電に間に合って帰宅
また、芹沢先生から葉書が届いた
登呂遺跡から杉原先生が帰ってこられるので、明大の研究室に来てくれないか
杉原先生と言えば、大先生中の大先生
登呂遺跡の責任者
そんな大先生にお目にかかれるのか
舞い上がってしまって何も手につかない
この続きは、シリーズの次回