音にきく 高師の浜の あだ波は
かけじや袖の ぬれもこそすれ
音に聞く名高い 高師の浜の人騒がせな波は
心にも掛けますまい 袖も濡れましょうから
祐子内親王家紀伊
祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのき)は
平経方(たいらのつねかた)の娘
お兄さんが紀井守(きのかみ)だったので、きと呼ばれた。
紀伊と書いてきと読む
元明天皇の時、国名は漢字一文字はダメってなったので
伊をくっつけて、紀伊をきと読ませた。
もうひとつ、津は摂津と書いて、摂津ではなく、つ
和泉と書いていずみと読ませるのもその流れです。
艶書合わせ
この歌は艶書合わせ(えんしょあわせ)での歌です。
この頃は随分時代が変わってきています。
昔から、歌合わせというのはありました。
平兼盛と壬生忠見、和歌の対決の行方は?
そのゲーム的要素がどんどん強くなっていきます。
艶書合わせというのは
男女対抗です。
恋の歌のやり取りをして、どっちの歌の方が良かったか、勝敗を決める。
まずは、男性から
相手の女性に対して、こんなに愛してますよ、というお誘いの恋の歌
次に、女性
嫌よ、というお断りの歌
私も愛してるわ
の方が良い気がするんだけど
ほとんどがお断りのパターン
こんなに愛してますよ
っていったって
艶書合わせの場に来て
じゃあAさんの相手はBさんで、と始まる。
どうなんでしょうね
この時は、男性の方は29歳。
歌は
「人知れぬ 思ひありその 浦風に 波のよるこそ いはまほしけれ」
(私は人知れず、あなたを思っています。
浦風に波が寄るように、あなたに一夜、お目にかかって、
この胸の思いをうちあけたいのです)
荒磯(ありそ)の浦は北陸の有名な歌枕。
思いがありと荒磯をかけている
思ひありその浦風は
おそれ入谷の鬼子母神みたいなもんです。
そうきましたね
そっちが、思いありその浦風と来たら
こっちも浜で有名な歌枕、
高師の浜のあだ波、で返しましょう。
高師の浜は摂津の国の歌枕
波には波でどうだっ
音にきく、は「有名な」高師の浜と
浮気っぽいって噂に聞いてますよ、をかけ
「高」師は噂が高い
あだ波で、浮気
波がかかって袖が濡れるのは嫌です
と
浮気に泣いて袖を濡らしたくありません
見事ですね
紀井
この時、なんと約70歳
すごいぞ、ばあちゃん
老人ホームの看護師さんのカミさんに言わせると
それは、浮気で袖が濡れているんじゃなくて
要介護です。
おばあちゃん、また濡らしちゃったのね
着替えましょうね
この勝負、紀井
ばあちゃんに、一夜を共にしたいと持ちかけた
勇気ある男性は誰かというと
なんと、百人一首の選者、藤原定家のおじいちゃん、藤原俊忠
じいちゃんとばあちゃんの心温まる・・・
違う違う、俊忠はこの時は29歳
よっぽどこの歌を気に入ったんでしょうね
自分のじいちゃんが負けた時の歌を採用しちゃいかんでしょう。