[迷信]『十戒』はつくり話ではなかった?

「科学で読み解く迷信・言い伝え」からのシリーズ

海が割れる
海が割れて、道ができる。旧約聖書の出エジプト記に、そんな場面が書かれている。
奴隷状態となっていたイスラエルの民を引き連れて
エジプトを脱出したモーゼは、
ファラオの軍隊から逃げ延びようとしたが、目の前を海に阻まれた。

もはやこれまでかと思われたとき、
ひるむことなくモーゼが手をかざした。
すると、海がふたつに割れて、海底だったところに道ができた。

モーゼの一行は、そこを通って脱出した。
ファラオの軍も同じように進もうとしたが、
そのときには海はもとに戻り、みなおぼれた。
そしてイスラエルの民は無事逃げることができたのである。

映画『十戒』にも描かれたので、
キリスト教徒以外の多くの人にも知られているエピソードだ。

海が割れるなど起こるはずもないため、
これをつくり話だと考えている人は多い。

しかし近年、これは単なるつくり話ではなく、
現実に起こったことではないかという研究成果が注目を集めている。

2014年に米国の気象研究者のグループが
コンピュータでシミュレーションした結果、
本当に海が割れて道ができた可能性があるというのだ。

聖書には「一晩中ずっと強い風が吹いて、
それによって海水が押し分けられ、陸地に変わった」
という記述がある。
研究者たちはここに着目した。

そして、1882年にエジプトへ軍事介入した
英国軍の記録をもとに推測を行ったのである。

エジプトを縦断して流れるナイル川は
最後に地中海に流れ込むが、
その河口付近には、ナイルデルタと呼ばれる
肥沃な大地が広がっている。

英国軍の記録によると、
ナイルデルタにあった潟(ラグーン)の水が
「風によって一時的に消えた」「地元の人が泥の上を歩き回っている」
となっている。

そこで研究者たちは、
その付近の地形や気候をコンピュータ解析した。
その結果、かつてタニスと呼ばれていた地域では、
「海が割れる」という現象が起こることを突き止めた。

この地域に風速28メートル以上の強風が吹くと
海水は西へと押し流され、
4時間ほどにわたってあたりに浅瀬が出現することがわかったのだ。

4時間もあれば、その地を徒歩で渡っていくことは可能である。

モーゼの一行が通りかかった際に強風が吹いたとすると、
聖書の記述が真実味をおびてくる。
これにより、モーゼが海を割ったのは、単なる架空の話ではなく、
現実に起こった可能性もあるということが判明した

日本でも
以前、韓国及び日本でも海が割れる話をしました
[昭和歌謡]142 珍島物語。海が割れるのよ~

こちらは風ではなく、単純に引き潮
韓国と日本で現実にあるわけだから
西洋でも、単純に引き潮で海が割れる場所があってもおかしくない

新田義貞の稲村ヶ崎の龍神伝説もあるしね

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[迷信]ハーメルンの笛吹き男

「科学で読み解く迷信・言い伝え」から

ハーメルンの笛吹き男
13世紀末のドイツの片田舎の町で、謎めいた事件が起きた。
130人近い子供たちがこつぜんと姿を消した。

ハーメルンの笛吹き男伝説として語り継がれてきた有名な逸話ではあるが、
じつはこの事件の詳細はまったくわかっていない。
後世の学者たちがさまざまな説を唱えてはいるが、
子供たちが姿を消したという事実以外は謎のまま残されている。

それでも科学的にこの事件を解き明かそうとするときに核になるのが、
伝説の中に埋め込まれているネズミの存在だ。
伝説の中身はこう。
ドイツのハーメルンという町に、カラフルなつぎはぎ衣装の「まだら男」がやってきた。
町全体が悩まされていたネズミの群れを退治する仕事を引き受けたそのまだら男は、
笛を吹いてネズミを集め、そのまま川に誘導しておぼれさせた。

ところが、町の人々は契約を破って報酬を出し渋り、
まだら男を町から追い出してしまった。
後日、別の服を着て現れた男が再び笛を吹くと、
今度は町中の子供たちが男の後について歩き出した。
そしてそのまま町の門を出て、山の方に向かって行き、二度と町には戻らなかった。

なぜネズミ退治の男だったのか

当時の社会において、ネズミは多くの災いの原因になる害獣だった。
なかでも伝染病を媒介するという性質からネズミの駆除は重要な問題で、
それをなりわい生業にする専門業者も現れたまだら男は
ネズミの駆除を請け負う専門業者だった可能性が高い。

伝説に含まれるモチーフが意味を持つと考えれば、
まだら男がネズミ駆除業者として描かれていることも、
そもそもの発端がネズミであることも意味があると考えられる。

中世の伝染病で恐れられていたもののひとつが、ペストだろう。

黒死病とも呼ばれたペストは、ネズミを通してノミやシラミに感染し、
そこから人に伝播していくとされている。

ヨーロッパでのパンデミックでは、ヨーロッパの人口の3分の1が亡くなった。

ハーメルンで子供が消えた事件が発生した当時、
ペスト菌の存在はわかっていなかった。
ペスト菌は1894年に北里柴三郎博士らによって発見され、
ネズミなどのげっ歯類に寄生するノミによって媒介されることが判明している。
しかし、伝説や絵の中にネズミがいるという事実からは、
当時の人々の間で「人間が大量に姿を消す出来事にネズミがかかわっている」というコンセンサスが成り立っていたのだろう。

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[迷信] 満月の夜にはオオカミ男が出る

「科学で読み解く迷信・言い伝え」からのシリーズ、外国の迷信編

オオカミ男
体中を毛が覆い、月を見ると牙が生え、鋭い爪が伸びて、オオカミのような遠吠えが響く。
オオカミ男と聞いて多くの人が思い浮かべるのがこのイメージだろう。

一見ふつうの人間が満月の夜にオオカミに姿を変えるオオカミ男伝説は、ヨーロッパを中心に世界各地に残っている。
各地に同じような話が残っている以上は、その原因となる事象が存在すると考えるのが自然だが、そのひとつとして有力なのが先天性の多毛症という遺伝子の異常だ。

多毛症
多毛症は、体中の体毛が過剰に成長する症状を引き起こす。
遺伝子の異常によって起こる先天性の場合は治療法がいっさい存在しないが、発症はきわめてまれで、中世から現在まで50例ほどしか報告されていないという。
重度のものは腕や脚などに限らず、顔面すら体毛に覆われてしまうため、
遺伝子異常という概念がなかった時代には不吉なものとして虐げられたり、
サーカスなどで見世物とされていた。

多毛症のことを「オオカミ男症候群」と呼ぶこともあり、
オオカミ男伝説との関連は明らかだ。
わけもわからないままに多毛症の人を見た人々が、
そのイメージからオオカミ男伝説を生み出したことは想像に難くない。

狂犬病
さらに、オオカミ男伝説を生み出したもうひとつの原因と考えられるのが、狂犬病だ。

狂犬病は現在でも致死的な感染症で、
感染した犬は凶暴性を増し、人間などを襲う。
襲われたときはケガですんでも、傷口からウイルス感染することで、
救命は不可能という最悪の感染症のひとつだ。

犬のほかにもネコやアライグマ、コウモリ、キツネなどの動物が媒介するが、
人から人への感染のリスクはない。
2017年の時点でも、狂犬病は日本、オーストラリア、イギリス、ニュージーランドなど一部の国を除いた世界中で報告されている。
狂犬病を発症した人間は、光や音の刺激に過敏になって異常行動を示す。
興奮状態におちいって攻撃的になり、舌を出し、よだれを垂らして、
最後には歩行不能、昏睡状態になる。
その様子を目の当たりにした人々が、オオカミ男のイメージを作り上げたのだろう。

きわめてまれな先天性の多毛症に対して、狂犬病はけっして珍しい病気ではなかった。
1500年から1700年までに3万件もの目撃情報があるというオオカミ男の正体としては、
狂犬病にかかった人間のほうがしっくりくる。

オオカミ男伝説は、特異な遺伝子異常と身近な感染症の両方が合わさって作り上げられた伝説だと考えられるのだろう。

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[迷信] 人気のない山奥に雪男が生息している

「科学で読み解く迷信・言い伝え」からのシリーズ

雪男
世界各地の雪山には雪男伝説が残されている。

もっとも有名なのは、1967年10月20日にアメリカのカリフォルニア州北部ブラフ・クリークという場所で撮影されたとされる16ミリ動画「パターソン・ギムリン・フィルム」にとらえられたビッグフットだろう。

カラーで捉えられたビッグフットは、全身が赤茶色あるいは黒色の毛で覆われている、身長2~3メートルの巨大な生物とみられる。全部で954フレーム、1分足らずの時間の中で、
ビッグフットはしっかりとした足取りで2足歩行し、深い藪の中に消えていった。
のちの調査の結果、捏造の証言が出てきたため、このフィルムは撮影者であるロジャー・パターソンとボブ・ギムリン2人によるイタズラであったという結論に落ち着いている。

しかし、それでも「このフィルムは本物だ」「これはニセモノだったとしても、巨大生物の存在までが否定されたわけではない」と考える人は一定数いる。

ビッグフットの他にも、イエティ、雪男など、呼び名はさまざまだが、人が立ち入ることがない山深い雪原に残された大きな足跡、木に絡まった体毛、目撃証言などから、その存在はミステリー愛好家たちの興味を惹き続けている。

そんな中で、巨大生物の存在を科学的に検証した人物がいる。
2012年、オックスフォード大学のブライアン・サイクス博士によって
イエティの体毛とされる標本の遺伝子解析が行われた

ホッキョクグマ
イエティの体毛とされるいくつかの標本から抽出されたDNAは、
2004年にノルウェーの北極圏で発見された12万年前のホッキョクグマの骨の遺伝子と
特徴が一致した。
比較に用いられた標本はインドやブータンで発見されており、
それぞれの地で少なくとも12万年前のホッキョクグマの子孫が生きていることを示唆している。

ホッキョクグマはそのほとんどが北極圏沿岸に生息する世界最大の陸生肉食獣。
流氷の海にもぐってアザラシやペンギンなどを捕食する

ところが、イエティの体毛としての標本が採取されたのはインドやブータンなどの高地
当然海はない
となると、氷河期に他のクマから隔離され
独自の進歩を遂げつつ、子孫を今に繋げているということになる

「雪男」という人間に似た生物の謎というより
別の観点の生物学的進化の謎に一気に取り変わった感がある
極めて興味深い研究結果である

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