久方の 光のどけき 春の日に
しづこころなく 花の散るらむ
日の光がのどかにさしている春の日に
桜の花は、どうして落ち着いた心もなく急いで散っているのだろうか。
紀友則
紀友則(きのとものり)は、紀貫之のいとこで、貫之より二十歳くらい年上
40歳を過ぎるまで大した官職につけなかった
やがて天皇の行動を記録する内規という要職につく
文筆に優れていないと務まらない仕事だったので
文章力はかなりあったと思われます。
古今集の選者のひとり
三十六歌仙のひとりでもあり、歌人としてはかなりの実力者
鑑賞
久方の、は天、空、日にかかる枕詞
光にはかからないんだけど
光は日の光だから拡大解釈でOK
のどけきは、ゆったりのんびりした様子
しづこころなく、は静かで落ち着いた様子がない、ということ
この歌は上の句と下の句で、全く逆のイメージを歌っているところが面白い
桜の花って、日本人なら10人が10人とも持っている定番中の定番っていうイメージ有りますよね
散り際の良さ、パッと咲いてパッと散る潔いイメージ
あまりにそのイメージが刷り込まれているから
桜を見ると、急いで散る、しかないですね
ところが
ちょっと待ってくださいね
そうでしたっけ
というのが、この歌
春が好き
みなさん、四季の中でどの季節が一番好きですか
それぞれですよね
私は、圧倒的に春
春の何が好きって、音です。
春で思い浮かぶのがこんな感じのイメージ
暖かい日に
遠くまで見渡せる田んぼでも原っぱでも良いんだけど
端っこの方に自分が座る
向こうの方にあるのはベストなのは長ーい土手
ただ静か、である必要はない。
向こうの方であれば
車はまあまあ走っていて良い
ここ、ポイントね
向こうの方を走る車の音が
春だと独特になります。
表現しづらいんだけど
ぼわっとしている
包まれるんです。
鋭角じゃない
何かに包まれる音
この音を聞きながら
ひたすらまったりする
ひなたぼっこ
時間をゆっくりゆっくりに使う
何にもしない
なんて贅沢なんでしょう
こんなことできるのは、唯一春だけ。
秋も温度としては同じくらいの時もある筈なんだけど
なぜかおんなじ音がしない
ぼわっとしない。
私が一番幸せ感を感じるこの時間
この時間のことを書いた文章に出会ったことがなかった
初めて
あったんか
久方の 光のどけき 春の日に
これ、あの土手を言ってます
間違いない
少なくとも私は誰が何と言おうとそう思ってます。
春は決して忙しかったりしない
春は何もかもがゆったり
そうあるはず、そうあるべき
ね
桜さん
なんでまた、しづこころなく散ってるんですか
今は春ですよ
桜といえば季節感の王者ですから
桜を歌った歌だと勘違いするかも知れないけど
そうじゃなくって、
春の日を歌った歌
春の日がメインで
桜は脇役
対比をはっきりさせるために必要だった
アンパンマンに対する、バイキンマンみたいなもの
もうちょっとゆっくりゆっくりにしましょうよ
そういう歌ではないでしょうか
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