[百人一首]51 かくとだに~ 面白くてちょっと変

かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしも知らじな 燃ゆる思ひを

こんなにきみを愛していると いえればいいんだけど
とても口に出してはいえない
まるで伊吹山のもぐさのように
くすぶって燃える思いを
きみはちっとも分かっていないだろうね

藤原実方
藤原実方(さねかた)には、不思議な逸話や伝説が多く残るいっぽうで不明な点が多い。
歌人としては著名だった。
その死因に関しても、
神様の前を馬に乗ったまま通過しようとしてその怒りにふれ、
落馬したというつくり話めいたものだ。
さらには死後、雀になって清涼殿に飛んできた
などという説話まである。
かの清少納言と親密な関係にあったといううわさもある。

鑑賞
かけことばで張りめぐらされた掛詞や縁語は、まさに技巧のデパート
「かくとだに」は「こうだとすら」の意味。
「もゆる思ひ」の「ひ」は「火」にひっかけており、
「燃えるような思いが口に出せない」とつながる。
それにくっつく「いぶきのさしも草」とはいったい何なのだ?
となるが、ここにはアクロバットな技巧が隠れている。
「さしも草」はお灸に使うもぐさ(ヨモギ)の原料で、
もぐさの産地が伊吹山(岐阜県と滋賀県の中間)。
これで、「いふ」と「いぶき」に掛けているのみならず、
あとに続く「さしも知らじな」(君はそんなこと知るはずないよね)
という響きを導き出す仕掛けにもなっているのだ。
口ずさんでみると、つらなっていく語感がじつに心地よい。
掛詞とはいえ、お灸のもぐさがなぜ恋文に? と思うかもしれないが、
もぐさがじわじわと燃えていくさまを、
「もゆる思ひ」という切ない恋心になぞらえた縁語の技法が、
見事に効果を発揮している。

藤原行成との確執
藤原実方って、面白いけどちょっと変な人

殿上人たちが東山のほとりで花見をしているとにわかに雨が降ってきた。
桜狩 雨は降りきぬ 同じくは 濡るとも花の 蔭に宿らむ

すぐに歌っちゃうのね
春雨じゃ濡れてまいろう、って感じ?

ところがその日の雨はどんどん強くなり、どしゃ降り状態に
みんな、早々に引き上げるなか
一人だけ、傘も指さずに立ち尽くす。
濡れた雨を絞れるほど

大体、短歌の世界って「お約束」な訳で
そのまま実行する人はそうそういない

その行動が評判になり
蔵人頭(くろうどのとう)の藤原行成という人の耳に入った。
なるほど。歌は面白うございますが、実方のふるまいは感心しませんな

おっしゃるとおりですね
私は嫌いじゃないですけど

この行成さん、かなり有名な歌人

逆に、こう言われたことが、実方の耳にも入る
いまいましい奴め

そのあと、時を経て
二人が出会う
元々快く思っていない二人
ちょっとしたことで口論になった

恨みはらさで置くものか
ついつい、実方、手が出ちゃいます。

行成の冠を笏(しゃく)でうち落として庭へ捨てちゃった。
すわ 取っ組み合いか

このとき行成は少しも騒がず、
人を呼んで冠を取らせ、頭へかぶると、
やおら守刀におさめてあるを抜きとって鬢をつくろい、
さて居直って実方に向かい、

これはこれはご乱暴な。いかなる咎で、こういうお仕打ちを受けますのか、
後学のためにとくと承りたい

とおだやかにいった

一枚も二枚も上ですな

実方、いたたまれずに退散

間の悪いことに
一部始終を、主上に窓から見られちゃっていた。

行成にお褒めの言葉

実方は、今の東北地方、陸奥(むつ)のくにに左遷されちゃった。

ところが、呼びつけられて、キツーイ一言かと思いきや
みやびなお方は、どこまでも違いますね

陸奥の歌枕を見てまいれ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です