[百人一首]87 むらさめの。はいっ

村雨の 露もまだひぬ 真木の葉に
霧立ちのぼる 秋の夕暮れ

通り雨が過ぎて、その露も乾かない、杉や檜などの葉に
霧が立ちのぼっている秋の夕暮れだよ

寂蓮法師
寂蓮(じゃくれん)法師というくらいだからお坊さんなんですが
実は、藤原定家のいとこです。
いとこでありながらお兄さん。

はい?

俗名、藤原定長(さだなが)
藤原定家のお父さん、俊成の甥になります。
俊成に長らく跡取りが産まれなかったので
養子に入るんです。
でも、そのあと、定家が産まれる。
だから、いとこだけど兄弟

定長は何となくいづらくなったのかな
30代で出家しちゃいます。

一字決まり
出ましたね
みんな大好き
超有名な歌です。

「む」だけで上の句が確定する一字決まり
むすめふさほせ、の一番目ですから
とりあえず、まず覚える歌

さらに、下の句も「き」だけで確定する一字決まり
完璧な一字決まりはこの札だけです。

「む」はいっ
手裏剣のように札が飛ぶ

でも、それは映画ちはやふるの広瀬すずちゃんのような
競技カルタの人達の話です
われわれお座敷カルタの面々は
むらさめの、で、アッとは思うわけですが
ええっとどっかにあったぞ、とゆっくり思い出します。

村雨の、と来れば
霧立ち上る秋の夕暮れ

ついつい、
村雨の霧立ち上る秋の夕暮れ
あれ?短いな
間の句の印象、薄い薄い

今日は、間の句も含めて、じっくり鑑賞してみましょう

鑑賞
まずは村雨
秋の、短時間でどっと降ってさっとやむ、にわか雨の事です。
群雨の字が変わったものです。
日本は雨の国なので、雨にきれいな名前がいっぱい付いていますね
時雨、春雨、五月雨等々数えると何十個もあります。

ひぬは干ぬなので、乾かぬ
村雨が通りすぎて、まだその時の露が乾いていない間に

真木の葉の真木がポイントです。
真木とは常緑樹です。
秋や冬になっても葉を落とさず、ずっと緑色の木の葉っぱに、露が付いている訳です。

霧立ちのぼる、で時間経過を表しています。
単に霧がたちこめているだけじゃなく、どんどん辺りが真っ白になっていくさま

さあ、通してみてみましょう

私がこの歌の、ただもんじゃないポイント1にあげたいのは時間経過です。

村雨がどっと降ってさっとやむのに始まり
乾くでしょうか、まだ乾きません。
あれあれ、霧が出てきましたよ
と言っている間に、木々が真っ白に被われていきますよ。

この時間経過をたった31文字で表し切っている

ただもんじゃないポイント2
視点です。

村雨ですから、建物に雨宿りしたでしょう。
そこから遠目に、緑をぼんやりと眺めている
あら、あんなに降ったのにもう上がったよ
家を出たくなりますね
視点は露の付いた一つの葉っぱにクグッとズームインしていく
そして最後にどんどん霧がたちこめていくにつれ
絵がどんどん引きの絵になっていく
遠目、寄った、また引いた、を、これまたたったの31文字

ただもんじゃないポイント3
何と言っても色です。
さっきポイントだといった真木です。

秋ですよ秋。秋の夕暮れ。
紅葉さえ歌えばどうやったって、綺麗な歌にしあがるはず
敢えてそれをしなかった。
真木
そこには緑しかない。
緑に透明なきらきらをちょこっと乗せて
そのあと、白。
白白白が広がっていく。

締めで、秋の夕暮れですよ、と

彩とりどりじゃなくったって、こんなに綺麗なんだって
それは、秋の夕暮れだからなせる技なんだって

ものの捉え方や、生き方までも、一から教えられるような

良いお兄さんだね。

秋の夕暮れ
秋の夕暮れは第70首でも出てきました。
さびしさに 宿をたち出でて ながむれば いづこも同じ 秋の夕暮
むすめふさほせに、二つも秋の夕暮れが入っていたのね

その時にも解説した、新古今集で、三夕とうたわれたこの三つの歌

寂しさは その色としもなかりけり 真木立つ山の 秋の夕暮れ 【寂蓮】
(寂しいのはその色のせいではない。山には青々した木が茂る、この秋の夕暮れよ)

心なき身にもあはれは 知られけり 鴫(しぎ)たつ沢の 秋の夕暮れ 【西行】
(情を解さない私でもしみじみとした趣がわかる、鴫が飛び立つ水辺の、秋の夕暮れよ)

見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮れ 【藤原定家】
(見渡してみると、花も紅葉もないことだなぁ、海辺の苫ぶき小屋の、秋の夕暮れには)

さすが、そうそうたるメンバーですね

あらあら、寂蓮さん、村雨の、の秋の夕暮れじゃないのね
何だかこっちの秋の夕暮れ、村雨の真木の解説文みたい
「新古今集の」だから仕方ないんだけど
私は、村雨の、の方に一票。

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