野中婉。40年間監禁された女医さんは、不思議な触診

江戸のヒロインシリーズです

想像を遥かに絶する、あり得ない人生。

野中婉(のなかえん)
父は野中兼山
土佐藩の家老として、数々の大改革を成し遂げた。
唯一の失敗はあまりに素晴らしすぎた事。

政敵の謀略にはまってしまった。
謀反の罪を着せられたまま、49歳の若さで急逝。自殺か毒殺か。

この時、婉(えん)はまだ3歳
領地没収。お家断絶。
残された野中一族は追罰として、四国の西の果て、宿毛へ流されます。

母、兄弟姉妹、乳母たちとともに、高々と鋭い切っ先を空に向けた竹矢来が周りに巡らされ、
番士たちが厳重に見張る屋敷に幽閉される
報復が怖かったんでしょうね。

外に出ることは一切出来ない監獄生活
ずっとずっと、ひたすらにずっと続きます。

多感な頃、テレビもラジオもインターネットも何もない

外の世界ってどんななの?

婉、26歳になっていました。
後に本人が奇跡の一日と振り返る、夏の一日がやって来ます。

亡き父兼山を敬慕する若者が、高知の城下から遥々と30里を踏破して
遺児たちに会いにきたんです。
ここまでの23年間で、人が訪ねてくるなんて初めての事でした。

その願いは許可されず、会うことなく、空しく帰っていきました。
婉より2歳年下の谷秦山

ただ、ひとつの事が、これをきっかけに許されるようになる。
谷との文通。

「わたくしは知っている。このときから、わたくしはそのひとのなかで生きはじめたのだ、と。
谷丹三郎(秦山)という一人の男のなかに。貧しい、痩せた青年儒学者のなかに・・・」

これを、恋愛感情というには短絡的過ぎるだろう
兄弟以外の異性を見たことがない。
谷の顔だって知らない。

谷は儒学者なんだけど、医学や本草学にも詳しい。
質問の文を出す。
返信の手紙が来るや、一字一句、完全に記憶できるほどに何度も何度も読み返す。

その中で医学や本草学を習得していく。

文通が続きつつ、さらに17年が経過します。
3歳から幽閉され、実に40年、
ようやく外に出ることが許されます。

理由はひとつ。
最後に残った男性の兄弟である、弟が死んだこと。
兄弟が死んでいくのをずっと見てきました。
残ったのは、姉一人妹一人の3人姉妹。

これで、野中家は途絶える。
それが理由。

婉達を救うために、弟は自殺したのではないかとも言われています。

人生の始まり
43歳の婉は、そこから人生を始めようとします。
失われた40年間を取り戻すために

かつて父に仕えていた家臣を頼って朝倉村に戻ります。
ただ、彼らにしてみても、婉を支援すると何をされるか分かりません。

そんな中で「安履亭」を建て、医業を始めます。
朝倉の山野を歩きながら薬草を摘み、本草学の知識を深めていきました。

極貧生活が続くんですが
野中兼山の娘であるというプライドは持ち続けます。

やつれた自分の姿を見られたくなかったようです。
出歩くときは暗くなってから
常に腰に刀を差していた。

ひょっとすると、そもそも人との関わり方が分からなかったのかも知れません。

お医者さんだから、患者さんを見ないと始まりませんが
直接は対面せず、隣の部屋から問診。
ところが、婉が処方する薬は常に的確で
たちとごろに治ったとの噂があちこちで沸き起こり
評判の医師となります。

問題は脈です。
手首に手を当てて、脈を取らないと始まりません。
さあ、どうしよう

手首に糸を巻いてもらって一方の端を持つ。
微妙なとくんとくん、の振動

そんなばかな

そう思いますよね
お婉様の糸脈と大評判。

でも、怪しいぞと思う人が
糸を自分の腕ではなく
猫の足にくくりつける。

いつものように、薬が処方される

そらみろ、このペテン師がっ

包みを開けてみると
入っていたのは
細かく刻まれた鰹節でした。

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