[百人一首]94 み吉野の

み吉野の 山の秋風 さ夜更けて
ふるさと寒く 衣うつなり

み吉野の山に秋の風が吹き、夜も更けて
旧都の里は寒々として、
どうやら砧(きぬた)を打っている音が聞こえてくる

参議雅経(さんぎまさつね)
本名、藤原雅経。別名、飛鳥井雅経
多才なんてもんじゃない、何でも出来る人

雅楽の篳篥(ひちりき)もできて、書も一流
文化系だけなら、多才な人は今までもいましたが
この人は体育会系で超一流
蹴鞠(けまり)の名手で、「飛鳥井流」と言う流派を始めちゃったほど
家元です。

今であれば、歌って踊れるJリーガーみたいな感じでしょうか

鑑賞
擣衣(とうい)というお題での題詠
難しい漢字ですね
日本語で言うと、砧(きぬた)を打つ
砧って、衣板から来ていて、木や石の台に衣をのせ、木槌で衣を打って柔らかくしたり艶を出したりするもの

唐突に、擣衣がお題と言うには理由があります。

長安一片ノ月
万戸 衣ヲ擣ツノ声
秋風 吹イテ尽キズ
総べテ是レ 玉関ノ情
何日力 胡虜ヲ平ラゲテ
良人 遠征ヲ罷メン

という李白の有名な漢詩があるんです。
これは遠征に従った夫を思いつつ、砧を打つ妻の心持ちをうたう

みなさん、当然ご存じですよね
みたいな始まり方です。

み吉野の、は本歌どりで
本歌は

み吉野の 山の白雪 つもるらし ふるさと寒く なりまさるなり

『古今集』巻六の坂上是則の歌です。
坂上是則は
朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪
の作者です。
こっちも、吉野ですね

この、日中二つの有名な歌をイメージさせておいて、始まる訳です。

み吉野とは吉野山の事。

この歌のすごいところは
み吉野の山の秋風、で切っちゃったところ

み吉野の山の秋風、は、その後の句の何物をも修飾していない。

ジェスチャーゲームであれば
「おいといて」って事

さ夜更けて

次の、ふるさと、は旧都って事で
奈良の都ってことになる
昔は栄えていたのに、今は当時の栄華はない

吉野山と、奈良繋がりとはいえ
お互いが見えるほどの距離にはない

基本的に題詠なので
実際に景色を見て詠んだわけではないので、良いんです。

「寒く」
「衣をうつ音」

基本は静寂で、
その中に、かすかな風の音があったり
遠くで砧を打つ音だったり。

わびしさシリーズで行きますね、とばかり

よこはま たそがれ ホテルの小部屋
のように

わびしさを感じるものを繋げていって、得られる、イメージとしての効果

ストーリー立てていく、以上のものを伝えられるんですね。

さすがです。
通常の歌人ではなく
ボール蹴っているだけのことはあります。

索引はこちら
[百人一首]シリーズはこちら(少し下げてね)


パープルファウンテングラス

花カレンダー始めました

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です