[岩宿]5 さよなら

[岩宿] 相沢忠洋というひと
[岩宿] 一家団らん
[岩宿]3 少年の孤独
[岩宿]4 戦争とおばさん
の続きです
考古学の歴史を抜本的に塗り替える大発見をした、相沢忠洋さんの自伝「岩宿の発見」から

かごから解き放たれて
戦争が終わった
生死ギリギリのところからの生還

戻った桐生市では
ほとんどの日本人がそうだったように
食っていくために精一杯になる

ただ、精神的にはそれまでと全く違っていた

「かごから解き放たれて」と表現されている
それまでは不遇な境遇に、ただ流され
かごが被さり、自分は小鳥だった

父は鎌倉に行っており一人だったが
成人していたので、自分の意思で自分の行く末を決めることができた
それまでは、自分だけが不遇だったが
戦後すぐは、みんなが横一線

住んだ長屋の隣人と共に、食べ物を調達するための旅に出た

浅草で奉公に出たときの経験がこんなところで役に立った
調達交渉がうまく運ぶ

少し遠くまでも行くようになった
そして、ある日
横須賀まで足を伸ばした

お母さんに会いに行ってみよう

最後にお母さんと話した時は、おそらく生きては戻れないであろう出港前だった
今は状況が違う

久々の再会
お互いの無事を喜びあい、話がはずんだ

だが、時間がたつにつれ、様子がおかしくなってくる
お母さんの新しい連れ合いである、親切にしてくれた、工員さん
今では、親子であることは分かっている
忠洋の父の事を問いただしてきた
酒が入るとますます絡みつくようになった

親切にしてくれ、出港の時はわざわざ見送りに来てくれた
あの人と一体同じ人なのかと思うくらい

来るんじゃなかった

いたたまれなくなって、家を飛び出した

お母さんは追っては来なかった

夜遅かったので、ひたすら駅へ歩く
終電車にギリギリ間に合った

なのに、鎌倉で電車を降りてしまった
駅の待合室で一夜を過ごす

明くる朝、子供の頃に育った場所を巡る
知らない間に涙が頬を伝っていた

母はもういないのだ
自分に言い聞かせた

桐生へ戻ろう

さよなら

[人物]シリーズはこちら(少し下げてね)

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