[迷信] 幽霊は両手をだらりと下げた姿で現れる

死んだ人の霊が現世にとどまり、生きている人間の前に現れたり、
乗り移ったりするという話は古今東西で語られている。

日本ではざっくりと「幽霊」という言葉でくくられるが、実際に見たことがあるという人、 気配すら感じたことがないという人、そもそも信じないという人と、立場はさまざまだろう。

幽霊を主役にした怪談話は数えきれないほどあるし、
信じないという人でも幽霊に対するイメージはあるのではないだろうか。

着物姿の女性が両手をだらりと下げている姿。

うーらーめーしーやー

この手の形状は医学的には「下垂手」と呼ばれる。

具体的には手の甲を反らせたり、
手指の付け根の関節を伸ばすことができなくなったもので、
手首と指が下がった状態になってしまうのだ。

これは、手の甲の感覚を伝える橈骨(とうこつ)神経が
上腕の中央部で傷つく「神経麻痺」から起こる症状のことで、
現代ではケガやスポーツが原因であることが多い。

だが、昔は別の原因でもこの症状 を引き起こすことがあった。
鉛中毒。

鉛中毒には貧血や腹痛のほか、手の麻痺などの症状がある。

鉛は古代から寺の資材に使用されていたが、
時折、職人たちが中毒に悩まされていた。

もっとも、それが鉛中毒だとわかったのは後の研究からで、
鉛を扱う職業の人には今でも見られることがある。

かつては女性が使うおしろいにも含まれていた。
含有量は 少なくとも、おしろいは日常的に使用するものである。

本人が気づかないうちに中毒状態になり、
重篤な症状を招いてしまう。

1887(明治20)年には、歌舞伎役者で女形の中村福助が、
演技中に足の震えが止まらなくなり、倒れてしまう事件が発生した。
その後、原因が顔に塗っていたおしろいの成分であるであることが世に知れ渡り、
社会問題化したという歴史もある

『推論』
手をだらりと下げた幽霊の正体は、鉛中毒で死んだ女性

ちなみに、鉛入りの化粧品が禁止になったのは1934年と比較的最近のこと

鉛が入ることでより美白になれたというから
特に江戸時代の幽霊画などで描かれる幽霊がなんとなくみな美しく見えるのは
そのせいかもしれない。

[迷信] 厄年に厄除け

「厄年」
災難にあいやすいので何事も慎み深く、用心して過ごさなければならないとされている年齢

厄年には神社やお寺で厄払いをしてもらうのが慣例だが、平安時代から行われていたとされる。

もとは陰陽五行説からきているという説があるが、たしかな根拠はなく、
なぜこのような慣例が生まれたかは謎である。

現在よりも平均寿命が短く、医学も発達していなかった時代には、
人生の節目で自分の健康や生き方を振り返るという
自戒の念を起こすための区切りの儀礼のようなものだったと思われる。

そう考えると、平均寿命が延びて、医学も発達した 現代社会においては、
厄年の年齢が現実と合致していないのではないか。

ちなみに、令和元年の平均寿命は男が81歳、女性が87歳となっている。

昔の平均寿命はいくつぐらい?

明治〜大正時代で44歳前後、
江戸時代はおおむね30~40歳といわれている。
統計数字は残っていないから、ばくっと

現代とはずいぶん違うの心身の健康を見直す年齢も変わってくるはずだ。

たとえば、現代人の死因のベスト3はがん、心疾患、脳血管疾患(脳卒中)だが、
がんでいうと、女性は30歳を超えた辺りから緩やかに増えるのに対して
男性では50歳を増えると急激に増えてくる

現代版の新しい厄年が必要かも知れない

寿命自体は劇的に伸びているが
病気にかからない訳ではない

臓器一つ一つに耐用年数はある

たとえば、肺は20歳を過ぎると少しずつ衰えていき、70歳を過ぎると肺活量は20歳の頃の半分になる。

心臓の寿命は、心拍数と関係があると考えられている。20~23億回で寿命がくる。
だから、心拍数がゆっくりの人のほうが長生きするということになる。
ただし、このことがそのまま寿命に影響するわけではなく、
寿命にはほかのいろいろな要因が関係している。

逆に肝臓は老化しない臓器といわれる。
肝細胞再生能力が優れていて、70歳になっても、
その機能は若い頃とほとんど変わらない。
肝臓を切除する手術があるが、7割を切除しても半年ほどでもとの大きさに戻る。

あくまでも、これらは平均的な話
ひとりひとり当然違う

「厄年」が一番意味を持つのは
一般的平均的に注意すべき節目、というのを意識しつつ
その時に、自分の体と会話する事かも知れない

毎年健康診断を受けているとすると
毎年を厄年ととらえても良いのかも知れない

もうひとつ
健康以外の意味もある気がする
人生の節目

仕事だったり家庭だったり
節目で今までを振り返り
さあ、今後の人生をどうしていこうか、という計画

神社やお寺での厄除けは
今までと違った非日常的な体験をするわけだから
気持ちの切り替えには効果がある気がする

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[迷信]お寺の鐘などについている「緑青」には毒がある?

「科学で読み解く迷信・言い伝え」シリーズから

緑青(ろくしょう)
かなり長くほおっておいた10円玉に、緑色の緑青がつくことがあります
要するにさび

お寺の銅板葺きの屋根に出た緑青は実に味わい深い

鎌倉の大仏さんも緑です

二酸化炭素、水分にさらされた銅の表面には、緑色のさびができる。
それが長い時間を経ると、もとの銅色を覆い隠すほどになる。
水や酸には溶けないので、それに覆われている内部の銅は腐食しにくくなる。
古墳などから出土する青銅器は、もとの色が緑に覆われているために、といわれるが、
そのおかげで腐食してボロボロになることなく現在に至っている。

有害?
緑青は有害?
そう信じている人も多いようです。

結論から言うと、無害

厚生省(当時)では、1981年から3年間にわたり、
国立衛生試験所(当時)、国立公衆衛生院、東京大学医学衛生学教室による研究を行い、
緑青は無害に近い物質であることを証明した。

1984年には公式に「緑青は無害である」ことを発表している。

ただ、無害に近いといってももともと食用の規定で測っているわけではない。
食物でない以上はむやみに口にするものではなく、
ほかの重金属との毒性を比較したときに同レベルの値でしかないということだ。
ペロペロなめる人はいないとは思いますが
触っちゃったからといって、すぐに手を洗わなきゃいけないってものではない

なぜこのような誤解が生まれたのかは定かではないが、
昭和40年代までの小学校の理科の教科書にも「緑は有毒」だという記載がある。

毒々しい、という気がすると、どうにもそう見えてしまうんだろう

そもそも緑青は水に溶けにくいので、それを取り込んだところで
人体に吸収されて影響を与えることは考えられない。

日本の義務教育は全国にあまねくその恩恵を与えている一方で、
その過程で学んだことが時代を経てくつがえっても、
それまで得た知識をアップデートすることがむずかしいと言える

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[迷信]23 宵越しのお茶は飲んではいけない

迷信シリーズ、健康にまつわるあれこれです。

宵越しのお茶は飲むな

お茶は抗酸化作用のあるカテキンやビタミンCを多く含み、血圧の上昇を抑える効果もある
健康にいいとされる飲み物の代表といっていい。

お茶は抗酸化作用のあるカテキンやビタミンCを多く含み、血圧の上昇を抑える効果もある
健康にいいとされる飲み物の代表といっていい。

しかし、そんな優秀な飲み物も「越しのお茶は飲むな」と言われることがある。
これは昔の人が、実際に飲んでみて異変を感じたからではないだろうか。
なぜなら、茶葉には多くのタンパク質が含まれていて、
一度淹れた茶葉を急須の中に入れっぱなしにしておくと、
そのタンパク質が腐敗して雑菌が繁殖していくから。

悪役にもなるタンニン
茶葉にはカテキンが大量に含まれている。
カテキンには脂肪の燃焼を増やす効果もあるために、
生活習慣病や肥満予防、さらにダイエット効果があるとされているのだ。

ペットボトルで売られている「特茶」って試してみてかなり効く気がする

また抗菌・抗ウイルスの効果や、風邪やインフルエンザ
あるいは腸内環境を整える効果に関する研究も進められている。

しかしカテキンは水溶性なので、一度淹れるとどんどん湯に溶け出して効果は薄れる。

さらに、カテキンは酸化がすすむとタンニンという渋味成分に変化する。

一般的な茶葉に含まれている適量のタンニンは、胃の細胞を刺激して
消化を助けるというメリットがある。

ところが、タンニンがあまりにも増えると、胃の粘膜を荒らし、
消化液の分泌を妨げ、胃に害を及ぼす。
もともと胃腸が弱い人は、吐き気や下痢につながることもある。

そんな茶葉にもう一度湯を注いで飲めば、
お腹の調子が悪くなっても仕方がないかもしれない。

だから、「宵越しのお茶は飲むな」という言い伝えは、
「一度淹れてから時間のたった茶葉で入れたお茶は飲むな」ということなのでしょう。

忍者が活躍した時代には、わざと濃いお茶を淹れて、
それを地中で何日間も保管したものを「宿茶の毒」として使ったといわれる。
古くからのお茶は、命の危険にもつながるものだということは知られていたのだ。

「宵越し」の定義は、料理のレシピなどを参考にすれば6~8時間だ。
だから一晩おいたものたものでなくても、
朝に淹れたものを夕方まで放置しておくのも良くないことになる。

ペットボトル
そもそも、先程「特茶」の例を出したように
「飲むのはもっぱらペットボトルで買ったものばかりで、
急須で淹れたお茶などめったに飲まない。茶葉から淹れないので関係ない」
という人も少なくないだろう。

ペットボトルのお茶は腐らないんじゃない?。
しかし、ペットボトルのお茶もコップに移さずに直接口をつけて飲んだ場合は、
やはりその日のうちに飲んでしまったほうがいい。
お茶の中に口の中の雑菌が混ざり、場合によっては繁殖する可能性がある。

フタをあけることで空気中の雑菌が入るので、それが腐敗の原因になることもある。
メーカーにもよるが、一応の目安として開封後8時間以内に飲んでしまうのが安全とされている。

また、ここ数年、高濃度茶カテキンが話題になっている。
カテキンには抗菌作用や脂肪燃焼量効果があるが、
その一方で、大量にとりすぎると肝障害につながるという研究もあり、
過度な摂取は危険だともいわれる。

結局、急須は淹れたて、ペットボトルは開けたてが一番だということだ。

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