[百人一首]97 来ぬ人を。藤原定家、その2

[百人一首]97 来ぬ人を 藤原定家本人の歌
の続きです。

百人一首
武士で歌人の宇都宮 頼綱(うつのみやよりつな)に頼まれたことがきっかけでした。
頼綱は、定家の息子である藤原為家(ふじわらのためいえ)のお舅さんです。

京都嵯峨にある、うちの小倉荘の襖に穴が空いちゃって
紙貼ってごまかしたんだけど
目立っちゃってね

いっそのこと、逆転の発想で
百枚くらい色紙貼ったら風流だと思わない?

良いですね、その考え方
そこに和歌とかさらさらっと書いてあったら、いとをかしですなあ

いやあ、さすが
定家さんならではの発想
となると、どうでしょう
そのさらさらっ、をお願いでけんやろか

前回、後鳥羽上皇から言われた「新古今和歌集」の事は言いましたが
後鳥羽上皇失脚後、今度は後堀河天皇から「新勅撰和歌集」を作るようにと
今度は、いつものような複数の選者ではなく、藤原定家一人だけ
責任重大

そんなふうに、仕事として、和歌を選ぶことはやって来ましたが
今度はあくまでもプライベート

キリの良いところで百枚かなあ
どうせだったら、別々の人で百人一首
小倉荘なので、小倉百人一首です。

百人で一首ずつ選ぶことぐらい
定家にとってみれば、おちゃのこさいさい、屁の河童なんですが
せっかくのお遊びです。

仕事でどうしても出来なかったことをやりたい

全体として意味のある作品にしたい

代表的歌人のそれぞれ一番良い歌という発想は仕事でやりつくした。
えっ、この人だったらもっと良い歌あるじゃない、と言われても良い
基本的に時代の古いものからほぼ順番に並べるとして
その順番、配置に意味を持たせよう
配置に絶妙の意味があります。

かるた
同時期にほぼ同じ内容の百人秀歌というのも出しているから
完全プライベートじゃなく
多少は、売ったろか、と欲を出している気もしますが
本人もまさかここまで人気が出るとは思ってなかったでしょうね

あまりの評判に
昔から宮中でやられていた、貝合わせに上の句と下の句を分けて書いた遊びとして採用され
大人気

江戸時代になって、木版技術が開発されたことで
かるたという発想に発展し、一気に庶民まで大人気になります。

鑑賞
お待たせしました。歌の鑑賞にまいりましょう。

来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに
焼くや藻塩の 身もこがれつつ

待てども来ないあの人を待つ私は、
松帆の浦の夕凪に焼く藻塩のように
毎日、身を焦がれるような思いでいることですよ

松帆の浦はわが兵庫県の領土、淡路島の北端
夕凪は夕方、風がピタッと吹かなくなる時間帯
藻塩というのは、製塩という兵庫県の一大産業の昔のバージョンで
海草をじっくりじっくり焼いて、塩を取り出します。

「全体として意味を持つ」ということのサンプルみたいな歌。
おそらく自分の歌は早い段階で決めていたんじゃないでしょうか
これを最後から4番目に置く
とすれば、他は、こう配置しよう。

ひとつには、風

百人一首には、風の歌が多目に配置されています。
嵐だったり、そよ風だったり

だめ押しで、ひとつ前の公経の歌で
花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり

散々風を吹かせて、ここへ来て夕凪
ピタッと風を殺した。
それを象徴するように、藻塩を焼く煙が、細くまっすぐに立ち上る
静かにひっそりと立ち上る。

そして、次の歌で、また風を吹かせています。
風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける

ふたつめは、主人公。

これは本歌取りです
万葉集の笠金村の長歌

名寸隅(なきすみ)の 船瀬ゆ見ゆる 淡路島
松帆の浦に 朝凪に 玉藻刈りつつ 夕凪に
藻塩焼きつつ 海人(あまをとめ)ありとは聞けど 見に行ゆかむ
由のなければ 大夫(ますらを)の 心は無なしに 手弱女(たわやめ)の
思ひたわみて 徘徊(たもとほ)り 我(あれ)はぞ恋ふる 船楫(ふねかぢ)を無み

松帆の浦に、藻塩焼く海女の乙女が待っていると聞くが
会いに行く方法もなくて、行きつ戻りつ恋うている
というような意味

ということは、主人公は若い女性。

古くから、この時代まで、結婚は通い婚
女性のところに男性が通うスタイルなので
待つのはいつも女性
今日は来ていただけるかしら
悶々とした気持ちで待つ
その気持ちを歌にして届ける

必然的に百人一首も、女性が閨(ねや)で待ちくたびれる歌が多くなる
待つのは適齢期の女性で、夜から明け方まで

正直、ああまたか、の感がある


定家は、そこをひっくり返した。

同じ、女性が待つ歌でも
こんな情景だって出来るんですよ、と

昼間に、
家の外で
少女が待つ

ひょっとして初恋

あの人が通り掛かるのをひたすらに待つ

経験が少ないから
辛い思いの処し方が分からない

朝凪からずっと待って、もう夕凪
真っ直ぐに上がる弱々しい煙

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