[名僧]空海。いきなりの対応には理由があった。

名僧シリーズの空海の3回目
[名僧]空海。ありがちな青春時代のそのあとに。
[名僧]空海。憧れの唐で。
の続きです。

恵果
萬を持して恵果に会いに行ったところでしたね

恵果が、とても意外な対応で迎えてくれます。

私はあなたが訪ねてくるのをずっと前から知っていて
長い間ずっと待っていました。
今日顔を会わせることが出来てとても良かった。

恵果は、噂を耳にしていたのです。
空海というとても熱心でかつ優秀な人間が
自分会いたいと願っていて
それでも、失礼なきよう、サンスクリット語を学ぶなどして
会うための準備に時間をかけていること。

さあ、すぐに香花を選り分けて、
灌頂壇(かんじょうだん)に入りなさい

灌頂壇に入るとは、弟子になるための儀式

まだ、弟子にしてくださいとも言っていないし
初対面で挨拶しただけ

恵果には千人を越える弟子がいる
そもそも直接会ってもらえるとは思ってなかったし
弟子にしてもらえるのはずっとあとだと思っていた。

恵果は、インド中国を通じても
大日経(だいにちきょう)と金剛頂経(こんごうちょうぎょう)という
二つの流れの密教を完全に習得している唯一の人物。

恵果は60歳、空海は32歳です。

まずは、大日経の灌頂壇の儀式
これが6月始め
儀式が終わったあと
千人の弟子を飛び越えて
恵果本人が密教を教えてくれる

次の日もそうだった。
気づいてみれば、全ての弟子たちを無視して
空海のみに完全につきっきり
それが1ヵ月続く。

あまりの予想外の展開に
驚きと戸惑いを隠せない。

そして7月始め
今度は金剛頂経の灌頂壇の儀式
その後は、金剛頂経についてつきっきり

何も言ってもすぐに理解してしまうことで
恵果としても面白くなったんでしょうか
異例というよりあり得ない「不思議」な現象

実は理由があったんです。

恵果は、自分の死期が近づいているのを知っていた。

自分が死ねば、この正しい完全な密教は滅びてしまうだろう。
密教は確かに世の中に伝わってはいるが
二つとも理解して初めて分かったことが数多くある
残念ながらその全てを伝えるに値する弟子にまだ出会っていない。

焦り

噂を聞いて、ひょっとして、と思い
一目見て、おそらく、と思い
実際に教えてみて確信した。

この男だ。

自分のこのあとの短い時間を
全てこの男に向けて使おう。

そして、8月上旬、
空海は伝法灌頂(でんぽうかんじょう)を受けた。
この灌頂は、阿闍梨位(あじゃりい)を得ようとする者に対する儀式。
阿闍梨位とは、弟子を取って師となり得る位。
過去に恵果の元で阿闍梨位を取得したのが一人だけいるが
その人はもう亡くなっている。

即ち、この2ヵ月で、自分の後継者が空海であると正式に内外に宣言したことになる。

今までの2ヵ月は、大日経について自分が教わり習得した全てであったり
金剛頂経についてのそれであったりする。
恵果が教わったことを空海に伝授するということ

ここから、新たな段階に入る。
二つを習得した歴史上初めての人物、恵果が
それが故に「分かったこと」
これは、どこにも書いておらず
恵果のみが、分かり感じ得た事

二つ別々に体系付けられ発展してきた二つの密教

同じだった。
「両部不二」(りょうぶふじ)

見る視点だったりアプローチが違うだけで
まさしく同じものを指していた。

そうだったのか!

そして、恵果が二つを融合してたどり着いた最後の密教

本来なら、書物に起こして後に伝えていくべきなんだろうけど
やっとたどり着いた時には
自分の寿命の方に期限が来ていた。

伝えねばならん。
とても短い時間で、
あまりに濃い1分1秒をちゃんと吸収してくれる人に。

間に合った。

12月15日入滅
恵果は魂が抜けたようになり、この世を去った。

インド中国を通じて唯一の人物、恵果

今度は
インド中国日本を通じて唯一の人物、空海
ということになります。

日本へ
2月、ある知らせが届きます。
次の遣唐使が来ているらしい。

もうこの時点で唐に留まる意味がない。

恵果の遺言もある

国にこだわる必要はない
むしろ、空海は日本に戻り、日本から密教を広めていってほしい。

空海は留学生(るがくせい)として来ている
20年は唐に留まるべき義務がある
途中で戻ることは、「闕期の罪(けっきのつみ)」という犯罪行為になる

当然、唐は帰国の許可を出す筈もありません。

次の遣唐使にうまく落ち合えても
連れて帰ってくれる保証も何もない

でも、やもたてもたまらず、長安を出発します。

この後、色んなドラマがあるのですが
長くなりすぎるので、まるっと割愛します。

随分苦労して、ようやく日本につきます。

ただ、日本でも「闕期の罪(けっきのつみ)」は重くのしかかり
太宰府に留めおかれて、京に入ることは許されないんですが。

続きは、シリーズの次回ね。

索引はこちら
[名僧]シリーズはこちら(少し下げてね)


梅 月の桂

花カレンダー始めました

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です