[富岡日記]4 やはり七粒も八粒もお付けになりましたか

和田英の富岡日記、やっぱり有名なのか
[富岡日記]2 神様お願い
[富岡日記]3 盆踊りが思わぬ方向に。
の続きです。

数ヵ月がたち、英(えい)は一等工女に出世
そして冬になります。

おトイレの行き帰り
おトイレが結構遠いところにしかありません。
当時は灯りといってもとても暗いもので、途中の道はかなり暗い
怖いので、誰かと連れあって行くことが多いのですが
英はおトイレが近い方なので、そうそう付き添ってくれません。

一人で行かざるを得ないときは全速力
なぜかというと、時々たぬきかむじなかが、いたずらをする

あるとき、4人で行ったとき、
中のはしご段の際の部屋から火が見えました
あんなところに火があったら危ないな、と思って良く見ると、火が青い

えらいものを見てしまった。
みんなに言ったら怖くて大騒ぎになるから
自分も怖くて大声を出したくなるのをグッと我慢

すると春日さんが、震えながら
さっきの火は何でしょう

一同、きゃあああ
大急ぎで帰って、その日は布団にくるまってすぐに寝ました。

お芝居
ある日事業済み後部屋長から、
今夜お賄にお芝居があるから参って見るように

大喜びで皆参りました。
何個もあります大釜の上に舞台が出来まして、
花道は本式にかかって、賄方の番頭共が皆役者になりまして、かつらをかむり、
衣裳なども皆本物で致します
おいらんとその恋人とのやり取り

みんな大喝采

すると、そでから、取締役が二人
お偉いさんまで芝居に参加するのかと大盛りあがり

でも何だか勝手が違います

大声を出しておいらんを突き飛ばす。

ようやく意味が飲み込めました。
どうも無許可だったようです。

みんなそそくさと会場を後にしました。

4月頃
さらに時が流れ、春になりますと尾高様に呼ばれました
(あの、渋沢栄一の大河ドラマでお馴染みの尾高惇忠が工場長です)

とてもよくやってくれているので、出来るだけ長くいてほしい

直々に言われたので天にも登る気持ち

でも、それからまもなく、国元の長野から報せが入り
いよいよ、製糸場設立が正式に決まったと

官営の富岡製糸場の目的は、外国人指導者を招き、製糸場のノウハウを身に付け
次の展開では、そのノウハウを元に民間で、製糸場を作っていこうというもの

その考え方に呼応して、長野でも漠然とではありますが
製糸場を作りたいという希望。
英が富岡製糸場に来たのには、それも視野に入れての事です。

明確な目標が決まったので、尾高にもその旨を伝え
富岡製糸場としては、英が抜けるのはつらいけれど
元々それが目的であったし、英こそは適任と喜んでくれた。

同じく、一等工女で一番仲の良いのが、静岡県から来た今井おけいさん
英が取れる桝数は四五升なんだけど
おけいさんがある時六升をあげた。

すごいと喜んでいると
あなただって出来ると思うわ

チャレンジ、と頑張ると
数日後に見事六升あげることが出来た

すると、さらに数日後
武州押切から来ていた小田切せんという20歳くらいのとても元気の良い女性
なんと八升をあげたとのこと
工場始まって以来の事と大騒ぎになり
入れ替わり立ち替わり、見に行って大評判

これは素晴らしいと
おけいさんと話したんですが
同じ繭で同じ釡
やってみません?

さっそく明日からと約束して
全集中
糸を切らせると無駄な時間が発生するので
そういった無駄な時間を極力減らす

そうすると七升取れた

そして三日目二人とも八升を取ることに成功
二人で喜び合いました

部屋に帰ると、部屋でもその話でしきり

同郷で年上の、和田初さんが
そんなに取れる筈がない
七粒八粒付けてとったのに違いない。

そんな筈ないじゃないですか
と、それ以降取り合いませんでした。

和田初さんは負けず嫌いなので、翌日、一心不乱に頑張ったらしく
七升取れたとのこと

気にせず、英は八升取ることだけを考えておりました。

それから、三日後
深井さんが、英たちがいるところに来て
時計台の隅から二番目の和田初さんって方が八升取りました。

英はおかしくてたまらない

部屋へ帰ると、和田さんの方から話しかけてきて
ようやくなんとか八升取れました。

あら、ようございました。
やはり七粒も八粒もお付けになりましたか

ははと笑って
あの時はごめんなさい
これからは決してあんな事は言わないようにする

取り方の話をしつつ、二人で声をあげて笑い合いました

不思議なものです。
それから、ひとりふたりと八升取れる人が出来てきて
八升取ることがそれほど珍しい事ではなくなりました。

[人物]シリーズはこちら(少し下げてね)

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