[三十六歌仙]18 素性法師。一瞬の千年

素性法師(そせいほうし)

音にのみ 菊の白露 夜はおきて 昼は思ひに あへずけぬべし

噂にだけ聞いてあなたを思っていると菊に置く白露のように夜は 「起きて」、昼は耐えられず消えてしまいそうな気持ちです

百人一首ではこちら
今来むと 言ひしばかりに 長月の有明の月を 待ち出でつるかな

素性法師の本名は良岑玄利(よしみねのはるとし)

僧正遍昭の息子です。
父に続いて天皇の血筋として生まれ、貴族の子として順調に昇進していました。

ところが、仁明天皇が崩御すると、寵愛されていた父僧正遍昭は、出家してしまいます。

お前も出家せい

えっ私も?そんなあ

若い盛りの頃に望まぬ僧の道へと進むこととなりました
それでも、僧正として大成し、歌僧といわれた父の影響を多分に享受します。

父遍昭の建てた、当時貴族たちのサロンとして多くの歌人が利用していた
雲林院(京都)という寺の別当を任されます。

当時の才人、紀友則や在原業平などの歌人と交流し、
やがて父に続いて「和歌の名士」と呼ばれるほどに名歌を残す僧となりました。

鑑賞
音にのみ 菊の白露 夜はおきて 昼は思ひに あへずけぬべし

噂にだけ聞いてあなたを思っていると
菊に置く白露のように夜は 「起きて」、昼は耐えられず消えてしまいそうな気持ちです

恋しい人に会えずに、様子は人の話に聞くばかり。
ああ、会いたい。
思いが募り眠ることもできません

「きく」=「菊」「聞く」、
「おきて」=「置きて」「起きて(熾きて)」、
思「ひ」=「日」「火」といくつもの掛詞を駆使して、

陽に当たり消えてしまう白露の昼と、
恋心燃える夜という一見対照的な事象を、
恋の苦しみを表す歌として見事に紡ぎあげました。

でも、良いのかなあ
煩悩だらけの気がしますが。

いらんお世話でした。

他の歌もいくつか

梅の花 折ればこぼれぬ 我が袖に にほひ香うつせ 家づとにせむ

(梅の花は、折り取ろうとすれば、こわれて散ってしまう。
だから私の袖に匂いを移してくれ。その香を家へのみやげにするから)

花ちらす 風のやどりは たれかしる 我にをしへよ 行きてうらみむ

(花を散らす風の泊る宿はどこか、誰か知っているか。私に教えてくれ。
そこへ行って怨み言を言おう。)

風が泊まっている宿って、なんてロマンチックなのでしょう

ぬれてほす 山ぢの菊の 露のまに いつか千とせを 我は経にけむ

(菊の露に濡れては乾かしつつ行く山道
――その「露の間」ではないが、
いったいいつの間に千年を私は過ごしてしまったのだろうか)

山奥の仙人の宮殿へ、菊を分けて辿り着いた人を描いた屏風絵に添えた歌

一方で露に濡れると一瞬という「露の間」を言い
その一方で、仙人の千年の時を言う、独特の世界観
屏風を見て、こんな歌が歌えるなんて
ただもんじゃない

[短歌]シリーズはこちら(少し下げてね)

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