[吉岡宿の奇跡]6 平八の暴走

[吉岡宿の奇跡]1 吉岡宿を救いたい
[吉岡宿の奇跡]2 大きな一歩
[吉岡宿の奇跡]3 せがれの気持ち
[吉岡宿の奇跡]4 金のなる木と熊野牛王符
[吉岡宿の奇跡]5 最大の協力者
の続きです。

大友軍次
最初、資金のめどはいつになってもつかないだろうと思っていたが
穀田屋十三郎や菅原屋篤平治の一途な思いは、色んな人の心を動かし
なんとかなるのではないかというところまで近づいた。
まさに奇跡

しかし、この提案を仙台藩がのんでくれないことには全く無理

可能性はあるもんじゃろうか

その事よ

大友軍次という男がいる
吉岡宿を領する但木氏の家来

まずはこの男に聞いてみよう、と訪ねる事にした

穀田屋と菅原屋が計画をつぶさに話すと、大友はため息をついた

はぁ。またえらいことを考えついたものじゃのう
して、そのほうらがわしにこれを打ち明けたのはいかなる料簡か

はっ。もし、この訴願をあげたとして、お上はこれをお取り上げになられましょうか
その見込みをおうかがいいたしたく参上いたしました。

それは仙台の役所にあたってみねば分からぬ

一生のお願いにござりまする。どうか、お出入りの役所に、内々に聞き合わせてくださいませぬか

考えておく
大友は渋い顔をした

駄目かと思っていたが、後日、大友から連絡が入った

喜び勇んで馳せ参じた。

どうも、二人が帰ったあと、せっせと書状を知り合いにしたため
あるいは自分で見込みを聞き回ってくれたらしい。

役所では脇々にその例があるかが肝心である

今の役所でもある前例主義
それが当時からあった
参った。そんな前例がある訳ない

それでな。そのほうらの訴願であるが

いかがでござりました。

それが、意見がまちまちで、よくわからぬ
ある者は誉めちぎっておった
これは、古今無双の願いである

確かにそういう者もおったんじゃが

急に二人の顔が曇った

立派すぎる。かえってまずい
という者もいたのじゃ

と申しますと

立派なのは領民の方で、これでは藩の政事が悪いようで
お上への当てつけにならないかと

二人は絶句した。
そんなことは最初からわかっている。
藩の政事が悪いのだ
長年にわたり吉岡宿に課せられるだけ課役しておきながら
助力せず見殺しにしてきた。

この願いは長い目で見ればお上の不利益である、と言う者
利子をかなり少な目に設定すれば許可が降りるかもしれない、という者もいた

結局分からないという事だな
帰り道で、菅原屋が言った

最初から、簡単ではないと分かっていた

あきらめずにやりましょう

十三郎はそういうしかなかった。

平八
悪いことばかりではなかった
吉祥院という寺で同士たちが寄合を重ねていた時

仲間の一人がこういった。

もし、藩から毎年百両の利子が取れるようになっても
最初のうちは、三浦屋への返済にあてなきゃいけない
そうすると、最初から金がもらえると思っている庶民の誰かが、不正だ横領だと騒がぬとは限らぬ

そうすると、向こうの方から突然大声が上がった
台所で下働きをしていた平八

旦那様がた。そんな心配は要らねえ
おらたちは、そんなことは言わねえ。信じてくだせえ
おらたちは、とてもこの企てに金を出すことはできねえ
だども、旦那様がたのご苦労ぶりは身に染みて分かる
今から家々を回って「旦那様がたに言いがかりをつけることはしない」と一札を取ってきます。

百姓達から連判状を取って、十三郎たちを助けると言い出した。

十三郎は目頭が熱くなった。

このあと、平八は驚くべき行動に出た。
百姓達から連判状をとるだけだと思ったら、それ以上の事もやりだした。
嬉しい暴走、と言って良い

町内の金持ちの家を回り、勝手に熱弁をふるって資金集めを始めた。
けちで有名なので声をかけなかった吉岡宿で二番目の金持ち、早坂屋からも金を出させてしまった。

虎は死して皮をとどめ、人は死して名をとどむと言います。
悪いことは申しません。あなたも出資の人数に加わった方が良い

いかほどなのか、の問いに
腕を組みながらこういった

そうですな。あなた様のご身分なら、五六百貫文というところでしょうな

五六百貫文も出せば店はつぶれてしまいます。
三百貫文。それでなんとかご勘弁くださいませんでしょうか。

平八に何の権限があるのか分かりませんが
実際に三百貫文出させてしまいました。

平八が集めた百姓達からの連判状
それを見て、同士たちも、口上書を書くことにした。

いざとなって一人でもやっぱり金は出さないとなったら全てが崩れてしまう。
絶対にそういうことは言わないという文書

例えば、大肝煎の千坂仲内
万一、金について行き違いが生じたるときは、わたくし家屋敷・家財・衣類はもちろん
妻子までも身売りしても上納いたす
わたくし妻子ともに右の覚悟にござそうろう

これらを全て添え
いよいよ、藩への願い出の書類を全て揃えた

見込みがあるかどうかは不明なまま
だけど、そういうことではない。
みんなの思いの結集です。

突然激しく戸を叩く音がした
平八です。

お願いがごぜえます。

さあ、続きはシリーズの次回でね

[歴史]シリーズはこちら(少し下げてね)

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