[吉岡宿の奇跡]7 いざ出発

[吉岡宿の奇跡]1 吉岡宿を救いたい
[吉岡宿の奇跡]2 大きな一歩
[吉岡宿の奇跡]3 せがれの気持ち
[吉岡宿の奇跡]4 金のなる木と熊野牛王符
[吉岡宿の奇跡]5 最大の協力者
[吉岡宿の奇跡]6 平八の暴走
の続きです。

願書を作り上げたあと、平八が訪ねてきたところでした。

二十三夜
お願いがごぜえます。
二十三夜の時、みんなの前で読んで聞かせていただけませんでしょうか

この時代、政治集会は開くだけで一揆と見なされるおそれがあった
ただ、二十三夜の時は村の衆が皆が酒を組み合わす事が許されていた。
庶民の識字率が高いとはいえ全員字が読める訳ではない。
政治向きの事で全員に徹底する必要があることは読み聞かせる
そんな習慣があった。

二十三夜の晩は宿場中が異様な雰囲気につつまれた。
縁日の浮かれた雰囲気はなく、真っ暗闇の中をぞろぞろと無言で寺に集まってきて境内は埋め尽くされた

ゆっくりと、読み聞かせが始まった。

一座は静まり返り、咳ひとつ聞こえない
読み聞かせの途中、突然カンカンカンという早鐘の音が聞こえてきた
近くの村で火事が起きたようだ。
ところが誰一人騒いだり立ち上がることなく粛々と聞き続けた。

その日
藩に願書を出すその日
吉岡宿のみんなは手を合わせて祈った
十三郎たちのもとに酒三荷をよこし、大官所への門出を見送ると言って聞かなかった
仙台まで着いて来そうな勢いだったから、それだけはやめてくれと説得した。
みんなはその場で両手を合わせて、神仏の名を唱えた。

十三郎たちは、吉岡宿を管轄する黒川郡の代官所を目指した。

やっとの思いでたどり着く。

八島伝之助
この時の勤番役人
普通の役人だった。
普通の役人は、この手の異例の訴願を疎む

そのほうども

願書にざっと目を通しただけで、無表情に言った。

この一件は、同役の橋本権左衛門殿に差し出せ

こんな願書は受け取りたくない、との露骨な責任回避だった。

すんなり行くとは思っていなかったが
これはとても過酷な指示だった。

橋本権左衛門は遠く離れた中新田の代官所
途中の山坂が険しい。

さらりと言うものよ
悔しいがどうしようもない。

特に菅原屋の馬は今にも倒れそうな弱馬だった。

大丈夫だ。死んでも願書だけは離さん。

でも案の定馬が水溜まりの泥に足を取られ
菅原屋は激しく落馬した

しまった

願書一巻を首からかけていた。
泥まみれ

泥をぬぐって、中を開けてみると全く無事
熊野牛王様の印が押してあるだけのことある

橋本権左衛門
ようやく中新田の代官所にたどり着いた。

橋本権左衛門はすぐに出てきて願書に目を通した。

心中祈り続ける

おもてをあげられよ

三人は一斉に顔をあげた

さてさて、これは、古今聞いたことがない願書じゃ

どっちだ
ダメって事か

これは、私が上へ必ず、よろしく取り計らってもらえるよう申し上げる。

えっ

さらに、あたたかい言葉が続いた。
今夜は一緒に飲もう、とまで言われた。

それは社交辞令ではなく、本当に呼ばれた。
酒に吸い物が出され
三人の志を誉められた。

さらに、翌朝も呼ばれ、その場できっちりとしたためられた「末書」を見せられた。

事は動き出した。
大願成就は近い
吉岡宿は救われる

その筈だったのだけれど

続きは、シリーズの次回

[歴史]シリーズはこちら(少し下げてね)

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