[吉岡宿の奇跡]10 さあ、答えは。

[吉岡宿の奇跡]1 吉岡宿を救いたい
[吉岡宿の奇跡]2 大きな一歩
[吉岡宿の奇跡]3 せがれの気持ち
[吉岡宿の奇跡]4 金のなる木と熊野牛王符
[吉岡宿の奇跡]5 最大の協力者
[吉岡宿の奇跡]6 平八の暴走
[吉岡宿の奇跡]7 いざ出発
[吉岡宿の奇跡]8 もはやこれまでか
[吉岡宿の奇跡]9 それはいくらなんでも
の続きです。

結果は
待った
必ずや、朗報が来るはず

そして

来たっ
お付札がついて嘆願書が戻ってきた。

「願之通、相済(ねがいのとおり、あいすみ)」と書いてあれば、許可
「不相済(あいすまず)」と書いてあれば、不許可

どっちも書いてない。
「銭にて、差し上げ候ては、お取り扱い、おむつかしく候あいだ、金に直し、千両の高に差し上げ候よう、仰せ渡され候」

???

やられた。

どういう事か

通過は、金貨、銀貨、銭とあり、その時々の相場でやり取りする
およそ金千両に相当する銭五千貫文を献上すると嘆願書には書いていた。

ただ、今、仙台藩は銭を鋳造しはじめたので
相場が大きく変動してきた
金千両に相当するのは、銭5800貫文。あと800貫文足りない。

銭ではなく、金にして差し出せと。

さすがは萱場杢(かやばもく)と言った方が良いのか
こんな狡猾な手を使ってくるとは

もっと取れる、と思ったのだろう。
あと、800貫文出せば許可すると言われたら、出さぬ筈はなかろうと。

実は、あのあと、代官の橋本権右衛門を呼び、
銭五千貫文のところを金千両と書き直させている
銭五千貫文は金千両と同じ意味だと、全く疑っていなかった橋本はあっさりと応じた。

にやり

どうする
ギリギリのギリギリ
これ以上どうせよと言うのか

菅原屋も十三郎も全くなす術を思いつかない。

いずれにしても、今度はちゃんと仲間に言うしかない。
策はないがまずはみんなに報告すべきだ。

まずは一番出資の多い、浅野屋のところに行った。

足取りは重い

事の次第を甚内は黙って聞いていた。

いくら足りんのじゃ

まさか
自分が出すと言うのではあるまいか
今までも完全に限界を超えている
これ以上出せば、一家もろとも裸一貫になる
凍えて餓えて死んでしまう。

800貫文と聞いて、

500貫文はうちが出そう。残りの300貫文は他の仲間でお願いしたい。

菅原屋も十三郎もぞっとした
どうしても欲しい金ではあったが、これは阻止せねばと思った

菅原屋は
ただ、それだけはひかえてください。

十三郎は
貴殿の身代がつぶれてしまえば、みなも困ります。
もし、大願成就しなくても、再度出し直すとか、策はあるやも知れません。

この言葉に、無口な甚内の目付きが変わった

大願成就しなくても、とはどういうことですか
九合目まで登ってきて、ようやく頂が見えて来たというのに。
これ以外の策で千に一つも成功するようには思えません。

確かに、萱場はそんなに甘い男ではない。

三人を重く気まずい沈黙の空気がつつんだ

座敷のふすまが、ゆっくりと開き、甚内の老婆が出てきた。

そのことでございますが

わたくしたちは、これまで衣類を売り払い、家財も全て売り払う覚悟で耐えてまいりました
それで、千五百貫文のお金をこしらえました。
ですから・・・

このあとの言葉に息を飲んだ

ですから・・・
わたくしたちは、もうとっくに覚悟が出来ております。
わたしも、娘も、孫も分かっております。
まだお金がいると言うのなら、家内の諸道具を売り払うまでのこと
どうかお金を出させてください。

十三郎は涙が溢れた
菅原屋もそうではあったが、心を鬼にした。

わかりました。しかたありません。お請けいたします。

安心しました。
わが家が傷むのは最初より覚悟の上です
家内一同も分かっておりますので。

安心しました、と言ったときの甚内の顔つきのなんと晴れ晴れしたことか
それを聞いたときの老婆の微笑みのなんとやさしげなことか

残り300貫文
これも一筋縄ではいかなかった。
でも残りの仲間たちが無理に無理を重ねて捻出した。

金換算して千両
とうとう集まった。

そして、その日はついに来た。

続きはシリーズの次回ね。

[歴史]シリーズはこちら(少し下げてね)

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