[百人一首]82 思ひわび

思ひわび さても命は あるものを
憂きにたへぬは 涙なりけり

つれない人を想い悩んで、それでもやっと命だけは繋いでいるのに
そのつらさに耐えきらないで、涙ばかりあふれでる事だなあ

鑑賞
「思いわび」というのは、恋歌に良く出てくる表現
思い続けて、思う事自体に疲れきってしまった状態

さても=それでも
それでも、命だけは繋いでいるのに

もう、その時の感覚を思い出すのも難しいですけど
こんな私でもありました。
「思ひわび」たこと

中学2年の時だった
好きな女の子がいて
思い続けて、息が出来なくなった。
日常の呼吸動作そのものがつらくなった。
常に苦しくて、肩で息している感じ

同じクラスにいるんだけど
会話なんてもってのほか
近づくだけで息苦しいから
できるだけ距離をとる導線を考えて動く

もうそこまで行くと、
恋の成就なんてどうでも良くなる。

相手の子からすると
常に自分を避けている男性がいるわけですから

何あの人
私のどこが気に入らないのかしら
になるよね

好意を持たれることは100%ない

考えることはひとつだけ
この状況を脱したい
息がまともに出来るようになりたい

全く勉強が手につかなくなり
坂道を転げ落ちるように
落ちこぼれになっちゃうんですけどね。

あの時の状況なら
これってあり得たかも知れない

「憂きにたへぬは 涙なりけり」

もう、疲れはてて何の気力も残っていないのに
どうしたんだ俺
何なんだこれ
なんで自然と涙だけが流れるんだ。

藤原敦頼
藤原敦頼(あつより)。出家したときの名前が、道因法師(どういんほうし)

かなり長生きで、
歳とってから特に、歌の世界に異常なまでに執着した人

とても激しい性格で
言葉を変えると、めんどくさい人

歌会に出席して、自分が負けたとき
判者のところに行き、涙を流したという

ああ、めんどくさい

住吉明神に、毎月願かけ、「歌がうまくなりますように」

90歳を越えて耳が遠くなっても歌会に参加し
講師(こうじ)の座のそばまで分け入って、その脇に寄り添い、
耳をそばだてて聞いていた

死んだあともすごい
千載集(せんざいしゅう)という歌集に、敦頼の死後
18首の歌を選んでもらえた

すると、撰者の、藤原俊成の夢枕に、敦頼が表れ
18首も選んでくれてありがとう

涙を流して喜んだ

藤原俊成、2首追加して、20首入れちゃったらしい。

私は中2の時と比べて
今も、感情の振れ幅はそれほど変わっていない自信があるけれど
大きく違うことがある

あの時は、ただただ辛かった
今は、ただただ楽しい。

そんな私だから
老いてなお、若い頃を思い出して、こんな歌を作れる敦頼を
気になって仕方ない

感情の振れ幅を
「楽しい」に使えたろうか

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