[百人一首]93 世の中は。将軍実朝、その前に。

世の中は 常にもがもな 渚こぐ
あまの小舟の 綱手かなしも

世の中は常に変わらないでいてほしいものだなあ
渚を漕いでいる舟を綱で引いている様子を見ると
とても趣深く心引かれるものだ

鎌倉右大臣
出ましたよ、超大物
鎌倉右大臣とは、源実朝(さねとも)の事です。
源頼朝(よりとも)と北条政子の次男であり、兄は第二代将軍の源頼家(よりいえ)、鎌倉幕府の第三代将軍です。

この歌、源実朝という人物を知らずに読むと
ただただ訳の分からない歌。
長くなりますが、源実朝の人生を見ていくことにしましょう。

政争に次ぐ政争
鎌倉幕府がまだきっちり固まっておらず
政争に次ぐ政争

北条家は、主導権を握るべく、まだ11歳だった実朝を担ぎ上げ
頼家を引きずり下ろします
その後、頼家は謎の死を遂げます。

当の実朝は和歌が三度の飯より好きだという文化系。
だから担がれたとも言えます。

生まれたときから鎌倉で、生涯一度も京都に行ったことがありません。
だから逆にかも知れません。京都に強い憧れ。

でも全く政治に興味がないわけではなく
成人してくるとそれなりにお飾りであることに抵抗する
でも、その度に挫折を味わう。

ますます、和歌への気持ちが強くなっていきます。

新古今和歌集が編纂され、お父さんの歌が採用されたと聞くや
一刻も早く読みたいと、超特急便で京都から送るよう指示したり
ある罪人に、良い和歌を詠んだら許してやると言って
本当に許しちゃったり
出世を望んで来た人に、和歌を詠んだらね、と言って
これもまた、位を与えちゃったり。

そして、百人一首の選者、藤原定家に弟子入り。

将軍なのに臆面もなく弟子になっちゃうんだから、大したもんです。
藤原定家は京都にいるので、手紙でのやり取りだけなんですけど。

最初は模倣の歌ばかりだったけど、先生が藤原定家なので
どんどん力をつけていきます。
次第に定家も唸るような、オリジナリティのある独自の歌風を身に付けていく。

京都にいる歌人には、とても歌えないようなもの

「もののふの 矢並つくろふ 籠手の上に 霰たばしる 那須の篠原」
「箱根路を わが越えくれば 伊豆の海や 沖の小島に 波の寄る見ゆ」
「大海の 磯もとどろに 寄する波 われてくだけて 裂けて散るかも」

何だか素人の私にも、スケールの大きさというか、今までと違う何かが感じられます。

そうこうしている内にも、権謀数術はうごめき
昨日の友は今日の敵
いくつかの事件が起きては消え、消えては起きる。

ある日、中国の宋から、陳和卿(ちんなけい)という僧が訪ねてきます。

お久しぶりです。

はい?

実朝様は、前世において宋の医王山の長老でした。
その時は私も医王山で修行の身であり、長老様の弟子だったのです。
ああ、お懐かしや

しばらく首をかしげて
膝をポンとひとつ

ですよねぇ
まるまるそういう夢を見たことがある
あれは、そういうことだったのか
その当時の事をもう少し詳しく聞かせてくれ。

実朝は、その後、宋に行きたいと思うようになります。

宋に行ける大きな舟を作れ

あなた様は将軍ですぞ
日本を離れてどうするんですか

いや、行くと言ったら行く。

出来上がったでっかい舟
さあ、海に浮かべて、というとき
押せども引けどもびくともしない
結局少しも海に浮かぶことなく
その場で朽ち果てて行くことになります。

おそらく家来たちの策略でしょうね
動かない筈ありませんから
良く言えば、優しい配慮。

この話、ここだけ聞くと、紛れもないバカ殿ですね

でも私は、ちょっと違うような気がしているんです。
このあと待ち構えている悲劇を予感していたんじゃないか
身の危険を感じることなんて、一度や二度じゃなかった筈です。
あるいは、日本に嫌気がさした。

騙された振りをして、
外国へ行くという僅かな可能性にかけたんじゃないか
新しい人生を自分の手で一から作りたかったんじゃないか

舟が手に入らないとして
次に手に入れようとしたのは、官位でした。

官位って朝廷にいただくものだから、
せっかくお父さんの頼朝が、朝廷に依存しない社会を、革命で勝ち取ったのに
何を逆行してるの?って話なんです。

京都好きって言ってしまえばそれまでなんだけど
なぜ?って問われて

源氏の血統は私で途絶えてしまうかも知れないから
そうだとしたら、その前に源氏の身分を高めておきたいのです

歴史を後から追える我々からすると
まさしくその通り
源氏の将軍は、実朝で終わりますから。

源氏で初めて、右大臣にまで、およそ一年くらいでとととんと。

長くなりました。

一旦区切って
このあとやって来る悲劇と
肝心の、このあまの小舟の歌については、明日に致します。

[百人一首]シリーズはこちら(少し下げてね)


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