[百人一首]93 世の中は。源実朝、その続き

世の中は 常にもがもな 渚こぐ
あまの小舟の 綱手かなしも

世の中は常に変わらないでいてほしいものだなあ
渚を漕いでいる舟を綱で引いている様子を見ると
とても趣深く心引かれるものだ

の続き、行きますね。

悲劇
右大臣になったところまででしたね
鶴岡八幡宮で、お祝いのパーティーをしましょう

当日、鎌倉にしては珍しい大雪になりました。
大銀杏の後ろに、隠れていたのは公暁(くぎょう)
実朝のお兄さん、頼家の息子です。

親の仇はかく討つぞ

ぎょえーっ

実朝、即死

公暁も追手に切られて、当日死んでしまいます。

仇ではないと思いますけどね
実朝は、頼家の謎の死には一切関与していない。

実朝、弱冠28歳の短すぎる人生でした。

次の将軍は、藤原氏が就き、
源氏の将軍はたった三代でおしまい
実権は北条氏が握ります。

実朝の死から2年後、また大事件が起きるのですが
それは、第99首のときにお話しすることとしましょう

鑑賞
長くなってごめんなさいね

これらを踏まえて、この歌を見ていきましょう。

まずは直接的な歌の理解から

「世の中は 常にもがもな」
「もが」は願望。そのあとの、「も」も「な」も感嘆。
常に、を願望しているのだから
世の中は変わらないでいて欲しいなあ、となる

「渚こぐ」
渚は浜。舟は浜から離れようとしているんじゃなく、戻ってこようともしていない
「あまの小舟の」
あまは海女さんじゃなく、漁師
「綱手(つなで)かなしも」
綱手で、舟は綱で引っ張られている事が分かる
いわゆる曳舟(ひきふね)
要は、舟は漕いではいるものの、浜づたいに綱で引っ張られて横に移動
かなしもは悲しい、に限らず、とても大きく感慨深いということ。

さあ、これ何が言いたいんでしょう。

なんでまた、世の中が変わらないでいて欲しいんでしょう。
少なくともお父さんは、平家を滅ぼした頼朝
世の中を変えた人
諸行無常の平家物語の張本人です。

あんたがそっちを言うんだ、とグッと惹き付ける。

そう感じたのが、ちょっと不思議なこの光景を見たことで。
舟のくせして沖へ出ていかず
せっかく広い海なのに、綱で引っ張られている

まあ、そういう状況もなくはないんでしょうが、
この風景をみて、一般人は、
世の中が変わらないでいてほしいなんて感じるでしょうか

舟というキーワードは、宋へ行く筈だった浜で朽ち果てた舟を思い起こさせるし
綱というキーワードは、傀儡(かいらい)である現状も象徴しているかも知れない

正直分からない

分からないって事は、根本的にこの歌の捉え方が違うんじゃないかという気がする

私は、ミロやピカソなんかの抽象画が好きなんですけど
それに似た感覚をこの歌に感じる

考えるんじゃなく、感じる世界

もう良いじゃないか。世の中はこのままでも良いじゃないか
目の前に、曳舟
ただ、それだけ

今までの和歌のあらゆる手法を否定。
掛詞だの、縁語だの、歌枕だの
全て廃止
美しい情景ですらない。
恋だって関係無い。

藤原定家が百人一首を選ぶ時には、
もう、弟子の実朝は悲しい最期を遂げていた

どれを入れる?

これじゃない
これでもない
弟子へのはなむけは
この歌しか残らなかったんじゃないだろうか。

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