一遍。乞食だって、楽しけりゃ良いじゃない

名僧シリーズです。
この人はなぜこんなに魅力的なんだろう。

一遍
法然、親鸞の流れをくむ一遍
南無阿弥陀仏の念仏で極楽浄土にというのは、一緒なんだけど
アプローチが全く違っていた。

法然や親鸞が画期的新薬を開発した学者なら
一遍は臨床医

とてつもない人数の人たちに実際に会って、救っていった人。

出家
一遍の一族は、元々で言うと武士なんだけど
承久の乱に参加し負けた側
辛うじて流罪は免れたが、ほぼ罪人扱い。
親は、一遍も連れて、逃れるように出家

一遍は、聡明な子供だったので
めきめきと頭角を表す。

元は天台宗だったんだけど、
世の中の大きな流れが、法然の浄土宗に向かっており、
一遍も浄土宗へとシフトしていく。
ただ、この頃には、法然のただ念仏を唱えようという派閥と
お経を学問的に学ぶことを重視する派閥に分かれていた。

ただ念仏、学問
君はどっちが良い?

はい、学問でお願いします。

面白いです。
後の一遍からすると、全く逆の方から始まるんですね。

そのまま進めば、人生は違った方向に行ったでしょうが
運命のいたずらと言うのでしょうか
一族のゴタゴタは悪い方向に向かい
出家さえ許されなくなります。

無理矢理還俗、俗人に戻ります。
そこで、結婚もし、妻子を持ちます。
ただ、幸せな家族生活とはほど遠く
父親が亡くなったあとは、一族のゴタゴタは泥沼化。
殺されそうになって、故郷を捨てる決意をします。

どうせ故郷を捨てるなら、出家の道に進みたい。
ただ、元の寺院が、はいまたどうぞと言ってくれる状況にはなかった。

妻子を連れて、流浪の遊行の旅に出ます。

ただ、ほどなくして、妻子とも分かれることになります。
その時の理由や状況は語られていないんですが
想像するに
単純に妻子を養えなくなったという事じゃないでしょうか。

たった一人になり、乞食僧となります。
施しを受けながら各地を回る。

ただ、そんな中でも信じる道は見えていたんです。
南無阿弥陀仏、念仏です。
四天王寺、高野山、善光寺等、仏教の聖地を巡りながら
考えを強めていきます。

南無阿弥陀仏と書かれたお札を皆に配ってはどうだろう

やってみました。

熊野神社の近くで、ある僧がいました。

南無阿弥陀仏の念仏のお札です。
どうぞ。

要らないです。
私は、浄土の考え方は信じていません。

押し問答になりました。
そして

まあ、信じなくても良いから、とにかく受け取ってよ
と無理矢理渡します。

私は何をしているんだろう
落ち込む一遍

そんなとき、ある山伏が声をかけてきます。

どうかされましたか

いや、実は

それはおかしいですね。
阿弥陀如来は全ての人を救うと約束されている筈。
では、信じるとか、信じないとか、関係無いじゃありませんか。
何にこだわっておられるのですか
こだわっておられる何かが有るのなら
そんなものは捨てておしまいなさい。

打ちのめされました。
そして、本当の一遍が始まった瞬間です。
捨てる一遍の始まりです。

信じる心
成仏しようとする心
極楽浄土に行きたいと願う心

浄土宗の拠り所、仏教の拠り所であった筈のものすら
全て捨てる。
ただ念仏を唱える
極楽浄土に行きたいからじゃなく
ただ念仏を唱える
仏と一体になる実感
それを楽しむ
嬉しい、ありがとう
ありがとうとまた、念仏を唱える。

手書きでは間に合わない
少しでも多くの人にお札を渡したいから
南無阿弥陀仏と木に彫って、刷って大量生産。

ただひたすらに手渡す。
これで極楽浄土に行けますとすら言わない。

ただ嬉しそうに渡すから
何だろうこれ、あの乞食僧やたら楽しそう。
これを持っていると、きっと良いことがあるに違いない。

そうしていると、自分達も手伝いたいという人が出てくる
そして、一緒に旅をしたいと。

恵まれていない人達。
難しい事は分からない
でも、そこにはきっと良いことがある
今のどん底の生活よりは、きっと良いに違いない。

乞食僧が集団になった。

ある日、気分が高揚した一遍が茶碗を箸で叩いた。

一人がその節で南無阿弥陀仏を唱え出した。
また一人は、体が自然に動き出した。
踊り念仏の始まりです。

奇妙です。
はた目に怖いかも知れません。
でも、それがどうだと言うのでしょう。

ある高僧が異を唱えました。
成仏というのは心静かにして行うものだ。
君たちのやっていることは邪道だ

ああ、そうなんですか
踊ってみたら分かりますよ。

私がお救いしましょうなんて気持ちは微塵もない
出来るだけ多くの人に会いたかった。
それだけじゃないだろうか

晩年故郷の伊予に帰る。
そして、もうこれでおしまいというとき
大切にしていたお経を全て焼いた。

残ったのは、ただ一つ
南無阿弥陀仏のみ

そう言ってにこやかに生涯を閉じた。

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