幸せの国ブータンの国立図書館、閲覧できない?

「ブータンに魅せられて」の著者、今枝由郎さんは、ブータンの国立図書館の顧問を10年間勤めます。

ただ、ほぼ鎖国に近い状態の中で、入国できるまでに3年近い時間を費やします。

元々チベット文化の研究者なので、その中のひとつの国としてのブータン。
ところが、実際に住んでみると、多くの衝撃を受けることになります。

国立図書館はお寺
国立図書館は、我々が知っている図書館とは全く異なる
信心深い仏教の国での国立図書館は、まさしくお寺なのです。
国立図書館に置いてある蔵書は、お経です。

ただ、その蔵書数も多いとは言いがたい。

理由は2つ
ひとつは、全国に数千ある寺院が、お経を手放さないから。
買い上げるのがとても難しい。
あるとき、お経を買い上げたら、その地域で不作が相次いだ。
返してほしいとの陳情が続き、返さざるを得なくなる

ふたつめは、館長ロポン・ペマラさんが、大変な人格者なんですが、彼がお経を買いたがらないから。
結構の予算をもらっているんだけど、この予算は国王からいただいた大事なもの。
日々、倹約に努めなければならない。

うーむ。
蔵書を集めるのが目的の国立図書館が倹約に努めているのですから、集まるはずもありません。

蔵書目録がない
なんと、国立図書館には蔵書目録がありません
ということは、何の本が有るか分からない。
ということは、閲覧のしようがない。
加えて、閲覧室がない
従って、閲覧者がいない。

それっていったい全体何のための図書館なのでしょうか

目録が無い理由は、お経は勝手に読んではいけないしろものだからです。
元々、お経は、先生が弟子に、これを読みなさいと言われて初めて読めるもの
何を読ませるかの判断は全て先生に委ねられている。

図書館のお経は全て館長ロポン・ペマラ氏の頭の中に入っており、これをどうぞと言われて初めて貸し出される。

そんな状態で図書館は開店休業状態かと思いきや、これがなかなか忙しい。
お寺へのお経の貸出しです。

各寺院では、色々な法要向けのお経が全て揃っていることは珍しく、
特別な法要前には図書館からお経を借りなきゃいけないという事らしい。

幸せの国ブータンの観光事業、それは観光なのか

寺院への立ち入り
では、観光客に最も魅力的であろう寺院はどうするか
真剣に議論されます

ブータンの特徴のベースになっているのが仏教の信仰。
かなり信心深い。
ほとんどの政策が、この仏教の信心深さゆえのものです。

日本人の感覚で言えば、寺院、仏像、仏画などは鑑賞の対象
見て、おお素晴らしい、と

ブータンの人の感覚では、あくまでも礼拝の対象。
それ以外の価値は「何もない」

となると、寺院で観光になるという事自体が分からない。

観光客には、仏教徒以外もいるのではないか
そんな人にずかずかと立ち入られては仏様に失礼に当たる
写真撮影なんで言語道断。

さらには、仏様のご利益を外国人に持って帰られては、自分達の取り分が減るという、そんな意見まで有ったらしい。

結果として、観光客の立ち入りはごく一部の寺院だけで、それも境内までで、堂内は全てダメ
その場合も、写真撮影は外観のみ、となったのです。

登山
1980年に、観光事業の一環として登山が解禁に。
寺院がダメとなると、重要な観光資源は山しかありません

ネパールでは山で大きな外貨を稼いでいます。
登山ブームがブータンに訪れます。

ところが
そのブームは2年ほどしか続かなかったのです。

もともと、ブータンはネパールのように、シェルパという職業の人はいません。
政府が農民を徴収してなんとか解決。
農民にすれば、今までよりかなり多くの収入が見込めるはず

ところが
登山期と秋の農繁期が重なった。
農民は本来の生業に支障をきたすことになる。

そして、一致団結した農民から国王に直訴状が提出される。
「仕事もない人たちの仕事のために、わたしたちは自分達の仕事ができません」
農民からすると、登山家は「仕事もない人たち」にうつったようです。

即座に、登山永久禁止条例が出されることになりました。
今も、7000m級の山が未踏峰のままです。

自分達の価値観
これらのエピソードでも分かるように、自分達の価値観こそが大事なのであって
カネのため、はどうでもいいんです。
比較してこっちの方が儲かるという価値観がない。
今まで、一度も飢饉にあったことがないという豊かな自然があるからというのがあるんでしょうが、今ちゃんと生活できている訳です。
であれば、より豊かに暮らす事に興味がない。
そんなことをすれば仏様からバチが当たるからです。

ブータンという幸せの国、間違いない!

ブータンの本を2冊読みました

GNH(Gross National Happiness)「国民総幸福」という指標を掲げた幸せの国
テレビでも何度か取り上げられ
民族衣装を着ることを義務づけられている
ということくらいの予備知識

読むとかなり印象が変わりました。

ブータンを表すキーワードとしては
国王、仏教、水力発電、森林面積、民族衣装、鎖国、女系大家族、時間、ブータン暦、・・

ブータンは本当に幸せの国だと思う
一冊目の本はブータンを全般的に分かりやすく説明してある

テレビとかで幸せの国だと言われているし、面白い国だなあとの印象

でも、2冊目を読んで、これは通りいっぺんで書くべきではないのでは、と思うほど衝撃を受けた。

「ブータンに魅せられて」を書いた今枝由郎さんは、実際にブータンに住み、国立図書館に顧問として10年間勤務した
外から見た評論と、重みが違う

開発のスピードを敢えてゆっくりにしているとはいえ、開発は進んでいるわけです
1冊目を読んでいる間は、古き良き時代を懐かしみ、ノスタルジーで語られる事も、現実にはどうなのかと、斜めに見る部分はありました。

本当に幸せの国だ。
言い切って良い。

そう思った。

今枝さんの色んなエピソードを紹介しながら、ブータンの事をお伝えしていきたいと思います。

まずはごくごく簡単に概略だけ
20世紀に入ってから、初代国王が選出された新しい国
現在は5代目
中国のチベット自治区とインドに挟まれたヒマラヤ山脈の南斜面の国
人口は70万人、面積は九州よりちょっと大きい
人口に関しては面白い話があります

人口に関して
ブータンの人口は資料によってまちまちです。
けっこう多いのが130万人というもの

1971年に国連に加盟したんですが、その申請の時、書類に人口を書く欄がありました。

さあ困った。
そんなの調べたことがない。

あんまり少ないと通らないかも知れないし。
100万かな。

その次の年も困った。
今年はどうしよう。
世界の人口増加の平均ってどれくらい?
じゃあうちもそれくらい増えたということで。

毎年、増加率を掛け算して申請していったら、130万人になっちゃった

2005年にちゃんと調べたら60万人だった。
2008年に調べたら70万人。

万事こんな感じの、ゆったりした国です。

鎖国と開国
国ができてから、かなり長く鎖国状態でした
ただ、1959年、中国がチベットに侵攻、ダライラマ14世がインドに亡命というチベット動乱が起きた。
挟まれたブータンは、インドに助けを求めたことから、仕方なく開国します。

観光事業開始
1971年に国連に加盟したあと、1974年に第4代国王の戴冠式というのがありました。
外国からの来賓も招きましょうということになります。

えらいこっちゃ

ブータン初の自動車道路も作りました。
迎賓館も作りました。
十数台のロールスロイスも買いました。

戴冠式はとどこうりなく終わりました

良かった良かった

ところで

迎賓館作っちゃったけどどうする?
ロールスロイスも買っちゃったよね

そのあと、使う予定もあてもない
じゃあ、勿体ないから、その範囲で外国人に来てもらって観光事業を始めるか

これが、ブータンの観光事業です。

ブータンは古くからの仏教国
立派な寺院がいっぱいあります。

観光としてはこのうえない材料ですが、
発想はあくまでも迎賓館の活用。

だから、観光客というより来賓。
個人の旅行はダメで、少人数のグループに限り、一人一日100ドル(約3万円)
世界最貧国への世界で最も高い観光旅行とも揶揄されます。

この観光に関してはまた面白い話がありますので、次回以降で
観光以外でも、色んなエピソードを紹介していきながら、
なぜブータンは幸せの国なのかについて、一緒に考えて行ければなと思っています。

そして、国ってどうあるべきなんだろう
幸せって何なんだろう、って考えるひとつの材料になれば良いのかも知れません。