[百人一首]75 契りおきし~、性格悪い なんで?

契りおきし させもが露を 命にて 
あはれ今年の 秋もいぬめり

させも草(よもぎ)の露のようなお約束を頼みにしてきましたのに
ああ、今年の秋もむなしく過ぎていくようです。

藤原基俊
藤原基俊(もととし)は、出世街道に一番近い藤原北家の出身。
でもね。基俊自身はさほど出世しなかったんです。

理由は大体分かっています。
性格悪い。

歌人としての実力はみんなの認めるところ
でも、当時双壁をなしていた源俊頼にことごとくつっかかる。
百人一首第74首の作者です。
[百人一首]74 うかりける
一方の源俊頼は、気にも止めてないんだけどね

鑑賞
この歌、解説が無いと全く意味が分かりません。

自分は出世できなかった。
まあいいや
でも、自分の息子はお坊さんで光覚(こうかく)というんだけど、何とか出世させてやりたいなあ。

奈良の興福寺で行なわれている維摩会(ゆいまえ)という大法会のあるんです。
仏教界で3本の指に入る重要な法会
ここで、講師をするという重要な役処があって
それを勤めると、将来の出世が約束されたようなもん。

興福寺は藤原氏の氏寺だったのでこの講師を決めるのは藤原氏の長。
誰かというと、藤原忠通(ただみち)

忠通に「うちの息子をよろしく」とお願いした

忠通は、しめぢが原のさせも草だよ

どういうことかというと
清水の観音の歌というのがある

なほ頼め しめぢが原の させも草 わが世の中に あらむかぎりは
(しめじが原のさせも草よ 自分がこの世にある限りは頼っていいぞ)
作者は観音様なので頼ってもらってナンボです。
導いてあげようじゃないのって歌。

大丈夫、大船に乗ったつもりで待ってろよ、っていう意味です。

ところが、維摩会の行われる秋が、今年も過ぎようとしているのに
お呼びがかからない。

「させも草の露のような約束の言葉を、命のように大切に思ってきたのに」

そもそも論で言うと、その頼み事がおかしいでしょうとは思うけど
まあ人脈も実力のうちかな

やっぱり忠道が悪いよね。
その忠道、次の歌の作者。
登場人物が繋がっていきますね。

不思議
不思議なのが藤原定家がこの歌を選んだ理由

ごく個人的な呟きをわざわざ歌にするっちゅうのも、よっほど歌が好きだったんだろうとは思うけど
そんなに歌が得意な人ならば、なんでまたこの歌を選んだんでしょう。

すいませんねぇ、そこはひとつ内密に、って内容で
しかもうまく行っていないんだから
世間に明らかにしちゃいかんでしょう。

基俊にも忠道にもなんも良いことない。
第一、息子の光覚にしてみればそんなつもりなかったかも知れないのに
末代までの恥さらし。

性格悪いでしょ
ほら、こんな歌まで。
めめしいね、って言いたかったんなら
藤原定家も性格悪いのかな

百人一首を選ぶに当たって
良い歌ベスト100を選ぶんじゃないからね
ってわざわざ宣言しているんだけど
こういうことなのかもしれない

生活や人生のいたるところに短歌は根を下ろしている。
良いねえ、とか、きれいきれい、ってことばかりじゃない。

世の中の縮図のような、そんなもんなんですよ、ってね。

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