芥川龍之介のラブレター

心にひびく日本語の手紙、から

芥川龍之介のラブレター
芥川龍之介が、結婚相手が嫁入りしてくる二月二日を前に、相手に送った手紙です。
長いので部分部分だけ、かつ現代語に直して書きます。

だんだん二月二日が近づいて来ます
来方が遅いような気も早いような気もします
(中略)
何だかこれを書いているのが間だるっこいような気がし出しました
早く文ちゃんの顔がみたい
早く文ちゃんの手をとりたい
そう思うと二週間が眼に見えない岩の壁のような気がします

今 これを書きながら 小さな声で「文ちゃん」と云ってみました
学校の教官室で大勢外の先生がいるのですが
小さな声だからわかりません
それから又小さな声で「文子」と云ってみました
文ちゃんをもらったら そう云って呼ぼうと思っています
今度も誰にも聞こえません
隣のワイティングという米国人なぞは本を読みながら居眠りをしています
そうしたら急にもっと大きな声で文ちゃんの名を呼んで見たくなりました
もっとも見たくなっただけで実際は呼ばないから大丈夫です
安心していらっしゃい

唯すぐにも文ちゃんの顔が見たい気がします
ちょいとでいいから見たい気がします
それでそれが出来ないからいやになってしまいます
(中略)
兎に角それが皆二週間たつと来るのです
当日お天気がいいといいですね
何だかいろんな事が気になります
暇があったら返事を書いてください 頓首
一月二十三日 芥川龍之介
塚本文子様
二伸 学校へはまだ行っているの?

文ちゃん
芥川龍之介が15歳の時、友人山本喜誉司の姪の、当時まだ8歳だった塚本文子と知り合う。
そして10年後、小説「鼻」が夏目漱石の高い評価を受けて、文壇にデビュー
そのすぐあと、手紙で文ちゃんにプロポーズする

その手紙も出ているんですが
長いので、一ヶ所だけ

貰いたい理由はたった一つあるきりです。
そうして その理由は僕は 文ちゃんが好きだと云う事です

このあと、小説家というのはこの先どうなるか分からないということ
あくまでも文ちゃんが自分の意思で決めてくださいということが
延々と続きます。

神経質、繊細、冷徹と評価されている、独特の文章を書く芥川龍之介が
ぐだぐだの
読んでいて赤面しそうな
とても可愛い文章を書くんだと思うと
宝くじにでも当たったようなラッキーな気持ちになりますね

文ちゃん良かったね

その後、三人の息子をもうける

結婚9年後、龍之介35歳の時
昭和2年7月24日
服毒自殺

遺書に書かれた自殺理由は
「ぼんやりとした不安」

再度自分の書いたこのラブレターを読んで欲しかった。
「ぼんやりとした不安」なんぞにさいなまれた時には
大きな声で叫べば良いんだ

「文ちゃん」

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