[徳川将軍の演出力] プレゼント合戦はやめられない

「徳川将軍家の演出力」から

献上
参勤交代の説明でもお話ししましたが、江戸時代が平和の時代となると
各大名が武力で功を上げて評価してもらうことが不可能になる

武士ってどうすりゃいいんでしょう。

あとは将軍の機嫌取りしか残っておりません。

各大名が江戸城に登城する日というのが決まっていて
それぞれ、何を献上品として持っていくかが決まっている

もらう側がこれを贈るようにと決めるというのもいやらしいと思いますが
大名たちの切実な希望
決めてもらわないとどんどんエスカレートするからです。

例えば、正月と八朔という8月1日は、刀と馬
ただ、刀は木刀で良く、馬は馬代としてお金で良い

木刀はただの木刀ではなく、飾り太刀と言い、黒塗りで装飾が施されている。

その飾り太刀は献残屋(けんざんや)というところから買います。
今でいうリサイクルショップ

はっきり言ってそんなもの、毎年何千も献上されたって何の役にもたちません。
もらった幕府はどうするか
献残屋に売るんです

ぐるぐる回るだけ
パチンコ屋の特殊景品のようです
あれ、去年うちがうちが献上したものじゃない?と思っても指摘は禁物
お約束ですから
食品なんかの場合は、乾物のように献残屋に売りやすい物の方が喜ばれます。

馬鹿馬鹿しいと言うなかれ
当事者たちは真剣です。
決められた中で少しでも他の藩を出し抜いてやろうと思っています。

将軍に献上するとき、老中とかの実力者や大奥とかにも配ったりします。

すみません。間違えて準備しすぎまして。
申し訳ないんですが、もらっていただいてもよろしいでしょうか、と

献上品で残っちゃったもの、という意味で献残品と言います。
あらま、同じ字ですね。

さすがに馬鹿げていると、正論に立ち戻ったのが、8代将軍吉宗です。
各領内のでないものは献上禁止
ふるさと納税の返礼品みたいですね

やったぜ
他の藩はこの御触れを守ってくれないかな
そうなるとうちは出し抜けるぞ

誰一人守ろうとしません。

盛岡藩事件
9代将軍家重の時、事件が起きました。

献上は大名の家格により、商品のランクが決まっているだけでなく
受け取る人まで決まっています。
どの家格の場合は老中が受け取り、どの家格の場合は奏者番が受け取り、みたいに

盛岡藩南部家は、老中に受け取ってもらえる家格
ところが、その時、老中がとても忙しく、代理で奏者番

悔しいけど我慢我慢

ところがその次の回も、奏者番が出てきた。
そんなことがあってはと、江戸留守居の尾崎が同席

恐れながら申し上げます。
あるまじきことにございます。

何だと
老中殿は忙しいと言っておろうが
誰に向かっての物言いか

押し問答
怒号が殿中に響き渡る

誰が受け取るかだけなんですがね

臨時の会議が行われました。
圧倒的に厳罰に処すべしとの意見
唯一反対したのが、老中の西尾忠尚

一命をも顧みず、主君の家格を守ろうとした。
もし南部家に何かが起きたら、真に役に立つのはこのような気骨のある者だ
これぞ、侍の鑑

尾崎は国元で謹慎。南部利雄は御目通り差し控え。
改めて、使者が登城し献上。今度は老中が受け取った。

尾崎は謹慎開けに、百石加増の大出世。

[歴史]シリーズはこちら(少し下げてね)

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