六義園、和歌の世界。その2

六義園の和歌の世界
の続きです。

5.指南岡(しるべのおか)
尋行く 和歌のうら路の はま千鳥 跡ある方に 道しるべせよ
紀淑氏朝臣 新千載
 
浜千鳥が浜辺に残した足跡をたどって、和歌浦に着きたいものだ。
千鳥よ、道しるべとなってほしい

この歌六義園の中で一番好きかも

ああ、迷子になっちゃった。浜千鳥さん、和歌の浦に行ったんでしょ。
じゃあ、足跡辿っていけば、和歌の浦に着けますね、という可愛い歌

ですが、実はこの歌、もうひとつの意味がある
新千載辺りになってくると、万葉集の頃のように、単純に情景を歌ったような歌は少なくなります。
この歌に前書きが着いています
「千鳥のはし」のこなたなれば、哥の心もかなふやうにて。

前を見ると、千鳥橋があります。

千鳥って右にちょこちょこっと行ったかと思うと左にちょこちょこ
千鳥足はそこから来ているので
千鳥橋ってジグザグなのかと思いきや、ここではまっすぐ。
まあそれは良いとして、千鳥橋の近くで詠まれた事に意味があります。

千鳥橋の近くには、玉津島神社があり、そこには後で話しますが和歌の神様、
衣通姫(そとおりひめ)が祀られている。

作者の紀淑氏は紀国の国造(くにのみやつこ)にして歌人

千鳥橋をみて、ふと千鳥を衣通姫に見立て
私にも、和歌の心が分かるよう導いてほしいなあ、と

「方」は千鳥の場合は潟で衣通姫の場合は方向性という掛詞
和歌の浦は、玉藻磯の時にもあったように
和歌が地名についているが故に、歌枕でありながら、和歌の世界そのものを表すように使われてきました。

すなわち、第二の意味はこうです。
先の歌道家が残した事績をたどり、歌道の道を究めたいものだ。
千鳥(衣通姫)よ、和歌の道が分かるよう導いてほしい。


さあ、滝の方に参りましょう。

この岩すごいですねえ。
川を流すような形してます

おっとこんなところに臥龍石か?

滝です

下が水分け石
水が左右に分かれるような形になっています。
拡大すると、こう

上が枕流洞
流れに枕している石
拡大するとこう

孫楚そんそは、隠遁しようと決心して、
友人の王済おうさいに「山奥で石を枕にし川の流れで口をすすごう」と言うべきところを
「石で口をすすぎ、流れを枕にしよう」と言ってしまった。
それを指摘されると「流れを枕にするのは、汚れた話を聞いた耳を洗うためで、
石で口をすすぐのは歯を磨くためだ」と言い張った
すなわち、屁理屈を言う人の事を、漱石枕流(そうせきちんりゅう)という

夏目金之助が夏目漱石というペンネームを使ったのは
私なんぞは屁理屈野郎ですわ、という自虐の自己紹介なんですね。

千鳥橋から見た滝周辺はこんな感じ

初めは海ゾーンから始まりましたが、ここから本格的な山ゾーンに入ります。

和歌山で山と言えば?
はい。吉野の山ですね

6.下折峯(しをりのみね)
吉野山 去年(こぞ)のしをりの 道かへて まだ見ぬかたの 花を尋ねむ
西行法師 新古今集

吉野山のここで去年枝折(しおり)をして目印をつけておいた道とは道を変えて、
まだ見ない方面の花をたずね入ろう

すみません。石柱の写真は撮ったのですが
その奥の山の写真を撮るのを忘れたので、ネットから拝借

出ましたっ。みんな大好き西行法師。花と月の西行法師らしい歌です
せっかく道を覚えるために去年自分で印をつけたのに
ひょっとして別の道には別の花が咲いているかもと思ったのでしょうね。

それにしても、しおりの語源が枝を折って、道を覚えておくという
ヘンゼルとグレーテル的な事だったとは知りませなんだ。
下折で「しをり」と読ませるのは珍しいそうです。

7.衣手岡(ころもでのおか)
夕(ゆふ)されば 衣手さむしみよし野の よし野の山に みゆきふるらし
読み人知らず 古今集

夕方になると袖の中まで寒い、吉野の山では雪が降っているのだろう。

吉野の山が桜で有名になるのは、平安時代後期から
桜を神木として寄進する習慣が根付いてから
それまでは、吉野山のイメージは雪でした。

8.峯花園(みねのはなぞの)
三吉野(みよしの)の 峯の花ぞの 風吹(ふけ)ば ふもとに曇る 春の夜の月
常盤井入道前太政大臣(西園寺実氏) 玉葉和歌集

吉野の山奥で夜風が吹けば、散った花びらで、麓から見上げる月は晴れた日でも曇って見える

西園寺実氏は西園寺公経の息子
鎌倉時代なので、もう吉野山は花のイメージになっているんですね。

吟花亭跡というのがあります。

吟花亭という茶室があってそこからこの見事な庭園を眺めることができた。

贅沢だなあ

そして横に、岩崎弥太郎が、清澄庭園にもあった赤い石を置いたんです。

高いんだこれが。

吹上
再び、海ゾーンにちょこっと寄ります。
吹上茶屋

吹上松


写真におさまらないほどの見事な松

吹上浜

現在の和歌山に吹上浜に対応するところは無さそうなのですが
強い風で砂が吹き上げられる浜
昔はそれはそれは風光明媚なところだったようです。

今では片男波(かたおなみ)海水浴場

9.不知汐路(しらぬしほぢ)
和歌の浦 知らぬ汐路に こぎ出(いで)て みにあまる迄(まで) 月を見るかな
藤原光俊朝臣 続古今集

和歌の浦のどこに流れていくかわからない汐路に漕ぎ出でて、
自分にとって十分過ぎるほど、月を眺めようか。

まだまだ続きます
続きは明日ね

[おでかけ]シリーズはこちら(少し下げてね)

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