さぎ草伝説。その2

さぎ草伝説。その1
の続きです。

常盤姫懐妊となると、9人の側室たちは存続の危機
何とかして追い落とすべく、一致団結して、計画を練ります。

内海掃部
世田谷城の花が常盤の方ならば、美男の掃部は紅葉よな

世田谷城で誰もが噂する内海掃部(うつみかもん)という美男子がおりました。
美男子だけではなく、仕事もできて性格も良い、殿にも可愛がられている完璧なる青年
今で言うと、福山雅治のよう

まず、常盤姫が内海掃部と怪しいと噂を流します。
お腹の子の父親は内海掃部なのではないかと。

何の根拠もなく、何を見たわけでもなくても
あれだけの美男美女ならあり得るんじゃないと
それだけの理由で、噂が広がっていきます。

とうとう、殿の耳にも入るようになるんですが、全く取り合いません。

つまらん

ところが、ある時、殿の側に仕えている内海掃部の懐から、
以前殿が常盤姫に与えた秘蔵の袱紗(ふくさ)と、
一首の和歌が、殿の目の前に落ちたのです。

殿が拾いあげて見れば、常盤姫の筆で、
おもいあまる 涙は色にいずるとも 袖のしがらみ 浮名もらすな

何じゃこれは
内海掃部を問い詰めますが、全く見たこともないもの
何と言われようが、身に覚えがございません、としか言えません。

内海掃部殺害指令
裏切られたと思い込んでしまえば、
愛が強ければ強いほど、反動が大きい。

内海掃部は父とともに、まずは距離を置いて、冷静になってもらうのを待とうと
小田原へ退きます。

逃げおったな。それこそがやましいことの証拠じゃ
討て。
追って討つのじゃ。

ただ、誰もそんな役割をやりたくありません。
殿と目を合わさぬように、端へ端へ

大場入道景茂の孫「新左衛門吉隆」が進み出ました。
弱冠16歳

私めが

いくらなんでも若すぎるとためらいましたが、
他に進み出るものはなし。

吉隆はたった一人で、小田原へ

何用じゃ

若造が一人でやって来たので、門が開けられました。

吉隆は刀に手もかけずに堂々と進み出ます。

君の恩は山よりも重く、海よりも深い。
たとえ筋の通らぬこととは言え、
君命とあれば潔く死を選ぶのが誠の武士の道ではありませんか

あまりに真っ直ぐな物言いに
何を思ったのか、父は、奥へ入っていきました。
これが最後と察し、息子の死を目のあたりに出来なかったのかも知れません。

残された掃部は茫然
そこへすかさず刀が下ろされました。

逃亡
残されたのは、常盤姫と、お腹の子供
同じ運命となるでしょう。

仕えるものたちは、身を案じ
お逃げなされい

でも私は本当に全く身に覚えのないことなのです。
身の潔白を晴らすためにも逃げる訳には行きません。
それで命が絶たれるならば
それが殿のお望みならば
私、命は惜しくありません。

それは違いますぞ、姫
姫はそれで良いかも知れませんが、お子はどうなされる
それほどまでに思うておられる、殿のお子ではありませんか。
まずはお産みなされ
そのあとどうなされるか、その時もう一度お考えなされるが良い

実家の奥沢城へ
ただ、少し不思議です。
真っ直ぐに奥沢城へ向かっていないのです。
どこに寄ろうとしたのでしょうか

まもなく、追っ手が向けられました。
そして、あの常盤塚の場所でとうとう追い付かれてしまいました。

ごめんなさい。ごめんなさい。
お腹の子供に謝ります。

これを殿に

歌をしたため、自害しました。

君をおきて あだし心はなけれども うきなとる川 沈みはてけり

(恨みはしません。いつか分かってくださるはずですから)

その後
そのあと、どれくらい経ったでしょうか
すっかり塞いでしまった殿の前に
一人の女性が訴え出ました。

申し訳ございません。
あの文は私が書きました。
あのような事に使われるなんて全く分からなかったのです。

以前に常盤姫に仕えた女性で
姫の字の癖が良く分かっており
手先が器用だったので、姫にそっくりの字を書くことが出来ました。
それを知った側室たちから言われるがままに歌をしたためたという次第です。
袱紗は姫の部屋から盗み出したのでしょう。

わしはなんてことをしてしまったのだ

後悔してもしきれない、懺悔の念

少し時がたち、気持ちが落ち着いてきたかと思ってもやっぱり思い起こす。

わしはなんてことをしてしまったのだ

罪なき内海掃部を殺してしまったこと。
常盤姫を死に追いやったこと。
あの楽しかった日々が思い出される。
そして、見ることの出来なかったわが子。

神社や寺や塚を作り、供養
あの思い出の野からさぎ草を持ってきて植えた。

さぎ草はさぎとなり、天の常盤姫の元へ飛びたつ。
足に、殿のしたためた歌を結び付けて。

[人物]シリーズはこちら(少し下げてね)

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