[三十六歌仙]25 源信明。愛しているよ。私もよ

源信明(みなもとのさねあきら)

ほのぼのと 有明の月の 月影に 紅葉吹きおろす 山おろしの風
ほのぼのと明けてゆく有明の月の光に山から吹き下ろす風に紅葉が舞っているのが見えます

源信明
光孝天皇の曾孫です

村上天皇代、名所絵の屏風歌などを奉る歌では定評のある人

中務(なかつかさ)との歌のやりとりが多く、ひょっとすると夫婦だったかも知れない

中務と言えば、あのすごい女性、伊勢の娘です。
中務も三十六歌仙に選ばれています。

源信明と中務との間には女児がいます

中務に送った歌がこれ
年ふれば 忘れやせむと 思ふこそ 逢ひ見ぬよりも 我はわびしき

何年か経てば、貴女は私を忘れてしまうでしょう
そう思うことの方が、逢えないことよりも切ない。

中務の返歌は「ながらへむ命ぞ知らぬ忘れじと思ふ心は身にそはりつつ」。

鑑賞
ほのぼのと 有明の月の 月影に 紅葉吹きおろす 山おろしの風
(ほのぼのと明けてゆく有明の月の光に山から吹き下ろす風に紅葉が舞っているのが見えます)

五・八・五・八・八と、三句も字余りのある珍しい作。

『深窓秘抄』『近代秀歌』など多くの秀歌選に採られた、信明の代表作です

「ほのぼのと」という語は、現代ではどことなく温かみが感じられる表現に使われがちですが、
実は暗い状態にやや光がさしてくる様子だったり、
ほんの少ししか光がなく薄暗いさまを意味します。
つまりこの和歌は、ぼんやりとした奥深い情景の傍で、
山から吹き下ろされた冷たい風によって、
情緒的な紅葉が一掃されたという意味合いのものとなります。

この歌を重要視し、これを常に胸に置いて和歌というものを案じるといいといったのが、心敬
「冷えさび」の教科書のような歌だとされてきました。
あの正岡子規も大絶賛しています

それでは、中務とのやりとりをもうひとつ

はかなくて 同じ心に なりにしを 思ふがごとは 思ふらむやぞ

頼りない気持のまま、あなたと心を一つにしたけれど、
私が思っているほど、あなたは思ってくれているでしょうか。

中務の返し

わびしさを 同じ心と きくからに 我が身をすてて 君ぞかなしき

切ない気持ちでいることは、貴方も私も「同じ心」なのですね。
そう聞きましたからには、我が身など捨てて顧みません。
ただ貴方のことが愛しくてなりません

[短歌]シリーズはこちら(少し下げてね)

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