[大奥]15-2 お芳は、新門辰五郎の娘

長らく続けて参りました大奥シリーズ
今回が、最終回です。

15代将軍慶喜に対して、正妻一条美賀子のお話をしました。
[大奥]15 一条美賀子。身代わり正妻。
[大奥]15 一条美賀子。日本一の卑怯者に何とする
[大奥]15 一条美賀子。安らかに。

今日は、さらにもう一人、お芳(よし)です

新門辰五郎(しんもんたつごろう)
新門辰五郎は火消しの大親分「を組」の組頭で、十番組の頭取。千人の男たちを動かせる。
その新門辰五郎、大名屋敷の火事の時、大名火消しだけでは間に合いそうにないと、
町火消しにも応援要請がかかった。

ちょうど、その屋敷に客として来ていた慶喜は
当時15歳にして既に一橋家の殿様だった

火事の状況を即座に判断し
町火消しの本来の役割をさっと説明し
大名屋敷は大名火消しだけで十分であって
町火消しは町方の人命を守るべく、延焼防止の方に回るべしと
大名屋敷には、手を出させなかった。

その姿に男として惚れ込んでしまった。
本来、町人の新門辰五郎は殿様に会えるはずもないのだが
裏で何かというと慶喜の仕事を引き受ける事になる

新門辰五郎は久留米藩有馬家の火消しとの喧嘩で、講談として取り上げられ、一躍超人気者になる

そんな新門辰五郎には特別器量良しの、お芳という娘がいた。
大恋愛の末結婚した旦那が蓋を開けてみればとんでもないぐうたらで
おまけに浮気をしちゃったもんだから、さっさと別れて出戻っていた。

慶喜におくにという側室がいる
ただ、身籠っておゆうという女の子を産んだのだけど、産後のひだちが悪かった。
宿下がりということになり、その住処を新門辰五郎が世話をした

慶喜は京都に行ったり忙しく、おゆうにはまだ会っていない。

頻繁にお芳は世話をしに通うが、おくにの病状は芳しくない。

いよいよ危ないということになり
お芳が向かった。

枕元に男性がいて、上半身を起こして抱きかかえている。

くに、くに、わしがわかるか
長いこと来られずどうか許してくれ
何か言ってくれ
お前はまさか、このまま死ぬのではなかろう
わしをおいていくのではなかろう

おくにも慶喜が分かったのか、うっすらと微笑んでいる

すると、慶喜が激しく泣き出した

お芳は目の前で起きていることにただ驚いた。
大の男、それもお殿様が側室が死にそうだと言うことで号泣している

また、来るからな
絶対に死ぬではないぞ

慶喜が家を出るとき
お芳と目が合った。

お前は誰だ
新門辰五郎の娘、お芳ともうします。

おお、新門の
いつもおくにが世話になっているらしいな
礼を言う。ありがとう。

おゆう
その夜、おくには亡くなった。わずか23歳の生涯だった。

残されたのはおゆう
男の子ならば、一橋家に引き取られる道もあろうが、女の子はそうはならない

よし、おゆう様を引き取ろうじゃないか
どうだ、お芳。
お前の子供ということにしちゃあ

よしておくれよ
私が出戻りだってことはとっくに世間様に知られちまってる。

最初元の旦那が引き取って育てるって言っていたのを
お前が無理矢理連れ帰ってきたことにしよう。
おくに様から聞いた話だけどな
おゆう様は、最初はお喜(およし)様になる筈だったらしい
殿様に縁起が悪いからと反対されたらしいんだけど
お前と同じ名前じゃねえか
縁があるってもんでぇ

ある日
ある日、辰五郎が一橋家に行った後、浮かない顔をして帰ってきた。

お芳、お前殿様に会ったことがあるのか
あるよ。おくに様が亡くなった日だよ

そうか
実はな。一橋家に呼ばれて、平岡様から話があった
お前をお殿様のところへお仕えさせる気はないかと言うんだ

えっ。私をかい?

お仕えって言ったって、世間的には妾って意味さ
おらあ、火消しでぇ
娘を妾奉公に出すつもりはねぇ、って言ってやったよ
男と男の付き合いだと思ってやって来たのに情けねえ
娘を差し出せ、はい、分かりましたなんてもんじゃねえ

すると
いや、そういうことじゃない
殿様がお前、お芳を一目見てすっかり気に入ってしまった。
もうすぐ、京都へ行くが、今回は当分帰れない
京都へぜひ、お芳を連れていきたいと言うんだ

悪かったな。嫌な思いをさせた。
断るよ。断ったところで、どうなるような関係じゃねえ。

いや、おとっつぁん。私は行くよ
妾だって構わないよ。
おんおん泣いてたんだよ
女のために、殿様がこんなに泣くのかって

あの時わたしゃ、惚れちまったのさ
おとっつぁんの娘だってことさ

とはいえ
ひとつとても驚いたことがある
あの状況下で、号泣したそのあとで
しっかりと女性を品定めしていたということになる

どれだけ女好きなんだろう。

京都で
京都では色んなことがあった。
慶喜は、お芳にめっぽう優しかった。
全ての女性に優しいんだけどね

そのあと、辰五郎も京都に呼ばれた。
目的は火消し。
京都では、戦争が起きる
その時、京都が火の海になる
それを見越しての辰五郎
男衆を大勢引き連れて乗り込んだんだけれど
辰五郎の奮闘むなしく、京都は火の海になってしまった。

そして、あの鳥羽伏見の戦い
お芳は一緒に船には乗ったが
まさか、それが逃げ帰るという意味とは思わなかった。

どうしても許せなかった。
子供は結局出来なかったし
お芳の方から、縁を切った。

新門辰五郎は、その後、勝海舟から江戸中に敢えて火をつけるという作戦の時
江戸中で少しでも多くの人を逃すという担当を担う。
結局は火の海にならずにすんだけどね

[大奥]シリーズはこちら(少し下げてね)

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