[三十六歌仙]8 凡河内躬恒。嘘?いえイメージの世界

三十六歌仙シリーズ、大物が続きます。

凡河内躬恒(おうしこうちのみつね)

住の江の 松を秋風 吹くからに こゑちそふる おきつ白波
(住之江の松に秋風が吹くと、その傍から沖の白波の音が添えられる。)

古今和歌集において左の筆頭が紀貫之ならば、右の筆頭はやはりこの人、凡河内躬恒です。
貫之と共に古今集の選者であり、入撰数は貫之(99首)に次ぐ二番目(60首)
超有名な大先生!

の、はずなんですが、現代人の我々には、知名度はそんなに高くない。
なぜか?

やっぱり、名前が読みづらい
「おおしこうちのみつね」なんて、振り仮名がないと絶対に読めません。

当時で言うと、二番手のさが
「躬恒」を紹介する際には必ずと言っていいほど「貫之」がついて回る

躬恒は事あるごとに、貫之というグレート・レジェンドと比較され、
その陰に隠れて印象が薄い。

柔道でいうと、山下泰裕に対する斉藤仁のような

でも、紀貫之の小型版なのかと言うと全然そんなことない
躬恒にしかできない、独特の世界

あり得ない美
一言で言うと、スッ飛んでいる
あり得ない歌

冒頭の歌をもう一度見てみましょう。

住の江の 松を秋風 吹くからに こゑちそふる おきつ白波
(住之江の松に秋風が吹くと、その傍から沖の白波の音が添えられる。)

松に秋風が吹き付ける
すると、どうでしょう。
その音に共鳴するかのように、沖で波立つ白波の音が聞こえてくるではありませんか

普通の感覚では、はあ?ですね
なんで、松に吹く風の音に、沖で波立つ白波の音が共鳴するよ
そんな遠いところの音、聞こえる訳なかろうが。

良いんです。
これぞ躬恒

感性を研ぎ澄まして、その先にある世界

百人一首だとこれ
心あてに 折らばや折らむ 初霜の をきまどはせる 白菊の花
初霜が降りた白い世界。その中に白い菊

えっ、どれが菊?
折ってみたら分かるかな
えいっ
おっと空振り
違ってたかぁ
もう、迷わそうとして、白菊ったらぁ

そういう歌

嘘つけ、どんだけ眼悪いねん、です

良いんです。
これぞ躬恒

はっきり言って、白と白というそれだけです。
躬恒以外の誰が、このような世界観を歌えるでしょうか

もうひとつ

山たかみ 雲居にみゆる 桜花 こころのゆきて をらぬ日ぞなき
(山が高いので空に咲いているかのように見える桜の花よ。心だけはそこまで行って手折らぬ日とてないのだぞ。)

すごいです。桜が空に咲いちゃってます。
そして、心が空に登って、枝を折っちゃいました。

くつかぶり
さらに、冒頭の「住之江の」の歌は、ある仕掛けがしてあります。
くつかぶり、という言葉遊び

十文字ある言葉を、和歌の各の上下に置いて詠む技法。
それぞれの句の頭文字を、一文字ずつ、末尾の文字を一文字ずつで成立する。

この歌の場合は すまふこお/のぜにるみ から、「見る偽の住まふ子お」となります。

何だか分からんがすごいっ

アグネスチャンの「ポケットいっぱいの秘密」と同じって事でしょうか
あなた草のうえ
ぐっすり眠っていた
寝顔やさしくて
好きよってささやいたの

頭一文字を繋げると「アグネス」となる。

うーむ
アグネス恐るべし

[短歌]シリーズはこちら(少し下げてね)

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