[家重]6 まことでございます

[家重]1 まいまいつぶろと呼ばれた将軍
[家重]2 家重様の目と耳になってはならぬ
[家重]3 どんな駒でも、前に進むことができる
[家重]4 お庭をともに歩きとうございます
[家重]5 二人だけの合図
の続きです

川下り
比宮(なみのみや)と家重は、江戸城の外へと出掛けた
隅田川の船下りをしながらの花見
お父さんの吉宗が隅田川の堤防に植えた山桜

雪を被った富士山が遠くに見える
水面を流れる風がひんやりと心地よい

比宮さんはいつからあんなに家重様とお話ができるようになったのでしょう

船の上では、忠光は必要なかった

頻繁にやり取りされる文(ふみ)で多くのことが分かりあえていた

家重が比宮の袖にとんと指を置くと、家重の目線の先を比宮が見る
おそらくそこには、比宮がこのむもの
比宮は喜んで二言三言話しかける
二人でそれから船が揺れるほど笑い合う

庭で
梅雨の時期になった
庭にかたつむりがいる

「大きな殻を背負ってのろのろと。まいまいつぶろは殿のよう。もっと小さな殻にすれば良いのに」
歩いたあとが濡れている
「殿がまいまいなら、妻の私もまいまい。誰ぞが殿のことをそう呼ぶのなら、私もまいまいと呼ぶが良い」

家重の足音が聞こえた
片足を引きずるのですぐに分かる

「おいでなさいませ」

「ああーーー」
忠光は口を挟まなかった
傍らに腰を降ろした

「まことでございます。やや子を授かりました」

家重は何度もうなづいた。

「必ず丈夫な赤子を産んでご覧に入れます。もう誰にも何も言わせませぬ」

「もう十分だ。増子は私の受けるそしりを消してくれた」
忠光の声も涙まじりだった
「私にこのような日が来るとは思っていなかった。子が・・できるのだな」
「私は生まれて初めて、父上を喜ばせる事ができた」

「まだ、男の子かどうか分りませぬ。無事に生まれるかどうかも。
もう少し先でございます。」

「私に子ができるということだけで父上は安心なさる。
私に限っては、男か女かはどうでもいい」

比宮が京を出てから2年が経っていた
家重と比宮がともに23歳になった5月の終わりだった。

[人物]シリーズはこちら(少し下げてね)

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