[百人一首]69 嵐吹く~

嵐吹く 三室の山の もみじ葉は
竜田の川の 錦なりけり

嵐が吹き下ろして乱舞する三室山のもみじ葉は
竜田川を覆い尽くして、まるで錦の織物のようだなあ

能因法師
能因法師(のういんほうし)はは橘諸兄(たちばなのもろえ)の末裔で、
俗名を永愷(ながやす)といい、橘元愷(もとやす)の子。

30歳の頃出家して能因と名乗る
馬の牧場も経営したりと面白い人

とにかく歌が大好き
特にその中でも歌枕(全国の名所)からのアプローチ
「能因歌枕」という解説書も出している歌枕オタク
歌枕を巡る旅をつづけて、多くの名歌を残している。

都をば 霞とともに たちしかど
秋風ぞ吹く 白河の関

(都を春霞のたつ頃に旅立ったけど
ここ白河(福島県)に来ると、もう秋風が吹いているなあ)

いやあ、良い歌出来たなあ
これは評判を呼ぶぞ
あえて言うとひとつだけ問題がある
私は今都に居て、白河の関には行っていない。

こうしよう
今から屋敷に引き込もって誰にも会わず
顔を真っ黒に日焼けして秋にこの歌を発表しよう。

いやあ、頑張り屋さんです。

この逸話、古今著聞集に書いてあって
能因法師を語るとき、必ず引き合いに出されて「やらせの元祖」と言われている。

ただ、この話の方が信憑性が疑わしいという意見もある。
私はそっちに一票

歩いた距離で言うと
あの芭蕉も越えるんじゃないかと言われるくらい歩き回っている
芭蕉自体、能因法師に通じるものを感じるのか、
あちこちで能因法師の歌を引用しながら、俳句を詠んでいる

ウォーキング好きの私から見ると
半年もウォーキングせずに家から出ないなんて
罰ゲームみたいなことを自ら課す訳がない。

常に旅だらけの人生で
白河への旅の時だけ顔が真っ黒なんておかしいし
白河から秋のうちにどうやって都まで帰ってこれるの

思うに
能因法師ならやりそう みたいな
今で言ういじられキャラだったんじゃないかな

あえてツッコミどころをいっぱい残した作り話で盛り上げて
最後に、まあ冗談だけどね、を言わなくていいほどにしておく
結構良いやり方だと思うけど、後世の人たちが真に受けているところが逆に面白い。

鑑賞
この歌は歌枕を二つ組み合わせたところに意味がある。

もみじと言えば竜田川

千早ぶる 神代もきかず 竜田川
からくれなゐに 水くくるとは

あの在原業平

さらに、三室の山も、もみじの名所としての歌枕

二つを持ってきて、絵葉書のような情景を作り上げた。

無理矢理距離的に離れている二つの歌枕をくっつけたので
三室の山のもみじがどうやって竜田川に流れ込むよ
とか

ひねりがないので
なんで、この歌?
能因法師なら、もっと良い歌いっぱいあるでしょうに
とか
評判がよろしくない。

でも、藤原定家のこと
意味を持ってこれを入れたと思う。

藤原定家は
良い歌ばかりを入れたんじゃないので悪しからず、
と最初にことわっています

歌枕に生きた能因法師という人間を表す、一番良い歌だったんじゃないかな

歌枕よ歌枕
竜田川と三室山
ぼん ぼん
はい きれいにもみじをイメージ出来ましたね

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