[三十六歌仙]15 藤原敏行。萩と鹿は夫婦です。

藤原敏行

あきはぎの 花さきにけり 高砂の をのへのしかは 今やなくらん
(秋萩の花が咲いた今頃は高砂の山の峰に住む鹿も鳴いているだろう。)

藤原敏行です
能書家で、かの弘法大師と比較されるほど

地獄の手前まで行ったけど
うまい具合に言って、閻魔様に許してもらい
現世に戻ってきたお調子者でもあります。

そのあたりのエピソードは、
以前に書いた百人一首の記事を見てね
住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人めよくらむ

鑑賞
あきはぎの 花さきにけり 高砂の をのへのしかは 今やなくらん
(秋萩の花が咲いた今頃は高砂の山の峰に住む鹿も鳴いているだろう。)

藤原敏行は古今集の代表選手で、最も古今集的
前回の藤原興風もそうでしたが
藤原敏行はそれでもちょっとひねって期待を良い意味で裏切ってくれますが
藤原敏行は裏切りません。

昔から、これぞ和歌の王道という定番の情景をそのままどーん
文句あっか、と大上段に振りかぶります。

冒頭の歌は、萩と鹿です。
和歌の世界では、萩と「鹿が鳴く」がセット

萩の咲く時期は、鹿がメスを求めて鳴く時期と一緒
萩を歌うなら、鹿が鳴くのは歌いませんと

この歌なんて、そもそも鹿を見ていませんし
鳴き声も聞いていません。

萩の咲いているのを見て
今ごろ遠く離れた高砂の地でも、山の上で鹿が鳴いているんだろうなあ
はい、それだけ

教科書通りっ

技巧的なことは一切なし

萩と鹿がセットになった歌を見ていきましょう
「令和」の産みの親、万葉集の大伴旅人です。

我が岡にさ牡鹿来鳴く初萩の花妻とひに来鳴くさ牡鹿

(私の住む岡に牡鹿が来て鳴く。萩の初花を花嫁に得ようとやって来て鳴く牡鹿よ。)

萩を花嫁に得ようと、牡鹿が啼いてプロポーズしている、と言っています。
さすが、大伴旅人

こちらがお嫁さん

鹿は、日が暮れると山から野に出て来て、草叢などに臥せって夜を過ごし、
朝になるとまた山に帰って行く

実際の生態はともあれ、少なくとも和歌ではそんな風に詠まれている。
秋であれば、萩の咲く茂みの中に寝ることもあったろう。

明けぬとて 野辺より山に 入る鹿の あと吹きおくる 萩の下風
(夜が明けたというので、野辺から山へ帰ってゆく鹿。その後を慕うように、萩を靡かせて吹き送る風よ。)

山に帰る鹿を萩が見送っている歌

ところがこの、仲むつまじい夫婦に強力なライバルが現れます
百人一首にも採用された、超有名なこの歌

奥山に もみじ踏みわけ なく鹿の 声きくときぞ 秋はかなしき

割って入ったのはもみじ

これ以来、二人の間はギクシャクします

萩は当てつけるように、いのししと仲良くなります。

そしてとうとうこんな風に

生まれ変わったら、また一緒になろうね

[短歌]シリーズはこちら(少し下げてね)

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