[家重]1 まいまいつぶろと呼ばれた将軍
[家重]2 家重様の目と耳になってはならぬ
[家重]3 どんな駒でも、前に進むことができる
[家重]4 お庭をともに歩きとうございます
[家重]5 二人だけの合図
[家重]6 まことでございます
の続きです
言葉
お幸
はい
この頃私も殿の言葉が聞き取れる気がするのです
まあ、本当ですか
昨日、聞いてみたのです。こう仰せでしたかと
二人で決めた合図
はい、なら1度、いいえ、なら2度手を握る
家重は驚いた顔で、1度握った
ついに、ついに叶いましたか
そうかもしれぬ。きっとこの子のおかげ
出産
3月半ば
比宮(なみのみや)はにわかに陣痛におそわれて、男児を産んだ
ただ、産み月には足らず、息をしていなかった
いっときは比宮も危ぶまれたが、半月でようやく立ち上がれるまでに回復してきた
その間、比宮の支えは、家重の真心だった
あの子はなんと孝行な子か
私には殿の言葉を聞き分けられるよう、殿には子ができるという証を授けてくれた
それなのに
どんなに詫びてもつぐなえない罪深い母じゃ
私は、言うてはならぬことをあの子に言いました
もし、口が聞けぬのなら、生まれてきてはならぬと
え
だから
比宮の病状はまた悪化していった
お幸に
私の願いは、殿が誰からもそしりを受けないこと
何としても次の将軍になっていただきたい
左様でございますとも
お幸は私の味方ですよね
もちろんでございます
私はこの世に生まれてきた甲斐がありました
殿に巡り合うことが出来た
お幸に大事な話があります
殿を次の将軍にするために力を貸してほしい
私で出来ることでしたら、どんなことでもいたします
御子を
はい
殿のお子を、お幸に挙げてもらいたい
はい?
殿を頼みます。どうか
そう言うと比宮は眠りに落ちた
赤子を産んで二十二日
比宮はもう目覚めることはなかった