神田上水物語。春日与右衛門の優しい気遣い

神田上水物語。主人公は3人
神田上水物語。楽しい口喧嘩
の続きです。

春日与右衛門(かすがよえもん)
水道が橋を渡り、市中にやって来て、春日与右衛門にバトンタッチというところでしたね

与右衛門は若いけど、頭も良く経験豊富

よしっ任しとけ、で良いんだけど
ここが与右衛門の良いところ。
腰が低く、各所のプロたちに頼んで歩く。

どうかお助け下さい。

利根川東遷の伊奈忠次にさえも頼み、快く引き受けてもらった。

ここに、素人の試行錯誤が高度な専門家の仕事に取って変わった。
江戸の中をこんな感じの木で作った水道管が張り巡らされることになります。

地図にするとこれくらい

毎日のようにやって来る藤五郎や六次郎が
昨日も説明したけど、という初歩的な質問をしても嫌な顔ひとつせず
実物を見せながら丁寧に説明する。

藤五郎さんが言うにゃ、水は高いところから低いところにしか流れねえ
途中に低いところがあったら、とてつもなく深く掘らなきゃいけねえんじゃないかと

はい、その質問ですね
前もありました。
では、与右衛門に変わって、でーこんが説明することにいたしましょう。

途中に桝(ます)という井戸のようなものを作ります。

そうすると、一旦下がった水位を回復することが出来るから
ずっと深く堀り続けることなく、ノコギリの歯のように下げては上げ、下げては上げることが出来る
結局は、最初の流し初めの水位までは戻ってくれるから
こんなふうに下から上に管を上げることだってできる

枡は、そういう水位を上げる目的
水道管が交差するときのつなぎめ

汚れを沈殿させて、水を浄化させる
という3つの役割を持った優れた仕組みなんです。

実際に、汐留の再開発の時に掘り起こされたのがこちら

地下に潜った水道から水を汲み上げるときは、こんな感じの井戸から汲み上げます。

おう、でーこんとやら、ありがとよ
でも、説明の仕方は、
この前、与右衛門さんに聞いたときの方が分かりやすかったな

こらっ
分かってるんだったら、質問すなっ

開通式
さあ、工事は完了
今までは水の無い状態で工事していました
最初の神田川から分かれるところの蓋を外し
いよいよ今日、水を流してみることに致しましょう。
開通式ですね

理論的には大丈夫な筈ですが、ワクワクドキドキ

功労者、大久保藤五郎と内田六次郎も呼ばれました。

ありがとう、わしたちも呼んでくれるなんて。
感激で感激で。

おいおい、藤五郎さん、泣くのはまだ早いぜよ。

お二人には大事な役目をしていただきます。

ええっ
何かやることがあるのかい

はい
最初に流れてきた水の、味見をしていただきます。

ええっ
そんな大事な役目を?
全てお前さんの手柄なのに。

この日、江戸中大騒ぎ
歴史的瞬間を見ようと大勢の人が集まってきています。
弁当屋まで出て、さながらお祭り気分。

「今、堰が切られました」

ドドドッ
ドドドッ

六次郎の掘った上水を順調に進みます。
カーブしているところでは、ドンっとぶつかるものの何とかクリア
決壊する場所もなく進んでいきます。

そして六次郎の作った水道の橋を渡ります。

よっしゃあ

地下の木製水道管に潜り込みました。

枡へ
枡が満たされ、次の枡へ

三人が待つ水道井戸へ

来たーっ

与右衛門さーん

おーい、また泣きそうになってる
味見だよ、味見

おう

あああ、うまい
こんなうまい水は飲んだことがない

と、そのあと
キャーッ

女性の悲鳴が

見るとあちこちの地面から、噴水が噴き出している。

どうしたどうした。
与右衛門さん
これは一体

そうかぁ
水の勢いが強すぎたんだ。

とりあえず、止めよう。

まさか、強すぎて駄目なんて、考えても見なかった。

大丈夫、与右衛門さんの知恵があれば。
何か方法はありそうかい

そうですね
入り口の関口の堰のところに仕掛けを作るしかないでしょう
その前の神田川は、水の量が多いときもあれば少ないときもある
どんな時でも同じ勢いで水が流れ込むような。
すぐには思い付かないけれども

かなり時間がかかるということだな
わしゃもう年寄りだ。今日の事だけで十分。
良い思い出になったよ。
人生で最良の日だった。

やはり、かなりの時間がかかった。
十余年の日々。
それまで、ただ自然に分岐するだけだった関口の堰は
今で言うダムのような、大がかりな建造物になった。

その後、明治34年まで、300年近くの間、
関口の大洗い堰と名付けられた
水量調節機能の付いた堰は稼働し続ける。

再稼働の日
春日与右衛門と、内田六次郎は静かに手を合わせた。

藤五郎は天の上から見てくれている事だろう。

索引はこちら
[歴史]シリーズはこちら(少し下げてね)


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