[家重]8 家重様にお伝えせずにいて、よいはずがございませぬ

[家重]1 まいまいつぶろと呼ばれた将軍
[家重]2 家重様の目と耳になってはならぬ
[家重]3 どんな駒でも、前に進むことができる
[家重]4 お庭をともに歩きとうございます
[家重]5 二人だけの合図
[家重]6 まことでございます
[家重]7 もし口が聞けぬのなら
の続きです

比宮が亡くなり
家重は随分酒の量が増えた
何も手がつかない

同じ状態にあったのが比宮のお付きのお幸

忠光がひたすらに家重のことだけを思う人生だったのと同様に
お幸は比宮だけが人生だった

京都に帰ろう
ただ、お世継ぎをお幸に挙げて欲しいという比宮の遺言
その言葉が頭の中でこだまする

そんなこと出来ようはずがない
ただ、比宮の一途な思いが嫌というほど分かる

一年が経過した

忠光に面会を申し入れる

私を家重様にご推挙くださいませ

えっ

身の程もわきまえぬ恥知らずとお思いでございましょう。
ですが忠光殿ならば信じてくださいますでしょう。
私は比宮様から、家重様のお世継ぎ様を挙げよと御遺言を賜りました
私は、どうあっても家重様の御子を挙げなければなりませぬ

大奥の女は家重に目を留められ、
名を呼ばれなければ寝所に入ることはできない。
だが家重は口をきくことができず、女を見ようともしない。

忠光が洟紙一枚すら人から受け取らぬことは聞いている。
だというのに今、幸のしていることは賄どころではない。
じかに官職を願い出ているにも等しい。

それがしは家重様の小姓となるとき、家重様の目と耳には決してならぬと決めてまいりました。
家重様がじかにごらんにならぬこと、お聞きにならぬことは、
それがしからお伝えせぬということでございます

ええ、ええ。ご立派な御覚悟と存じます

家重様の御口にしかなりませぬ。
ですが、これまでも考えを家重様に申し上げたことはございます

深酒を諫め、鷹狩りを勧めた。
師の室鳩巣が死んだときには、使者に伝えさせる口上をともに考えた。

比宮様の御遺言をお聞かせいただいたのでございます。
家重様にお伝えせずにいて、よいはずがございませぬ

半年が過ぎた

家重から声がかかる

増子の遺言をありがとう。だが、どうしてもまだ考えるのが辛かった

明くる年の秋、比宮の死から三年の後に幸は懐妊した。
そうして元文2年(1637)5月22日、幸は恙なく男児を産んだ。

[人物]シリーズはこちら(少し下げてね)

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