「ん」がなかった。続きの続きの続き。「ん」が生まれる

「ん 日本語最後の謎に挑む」から

「ん」がなかった
「ん」がなかった。続き
「ん」がなかった。続きの続き。空海のチャレンジ

かなの誕生
いよいよ、かなの誕生になります。

ひらがなが最初に現れたのは、紀貫之(きのつらゆき)の土佐日記935年
カタカナが最初に現れたのは、成実論(じょうじつろん)の828年

教科書で習いました。
ひらがなは、漢字を崩し字にして出来た。
カタカナは、漢字の部分を取って出来た。

ということはですよ。

元になる漢字がない「ん」「ン」は生まれようがない。
空海の大発見「吽」は残念ながら無視されちゃっていますので。

土佐日記より早い900年に書かれた伊勢物語には、
はねる音は「に(に当たる漢字)」と書くことにします。
なぜなら、はねる字がないからです。
と明記されているので、まだこの時点では「ん」はない。
935年の土佐日記。
ひらがなばかりで書かれているんだけど、一切「ん」は出てこない。

残念!
ひらがなカタカナはできても、「ン」の登場にはまだ時間を要します。

「ン」が生まれた
さあ、出た「ン」
カタカナの「ン」が最初に現れたのは1058年になります。
「法華経」です。
やったー
とうとう

でも、おそらくこれは突発的で
このあと急速に広まって、ということにならない。

1079年の「金光明最勝王経音義」
これは、最初にいろは歌も50音表の元が書かれている書物なんですが
そこに「ん」は「レ」か「ゝ」で仮に表しますと書いてある。

そして、明覚(みょうがく)が1101年に出した、「悉曇要訣」
この本、むちゃくちゃ画期的なんですが
50音を母音と子音の組み合わせで表現できると
縦横の50音表で表している。
そして、「ん」の音の存在を明確に書いた。
音としての「ん」については後でね。

いよいよ
カタカナの「ン」については、初出は1058年「法華経」でしたが
長く鳴かず飛ばずでした。

ここから急にという明確な書物はないんですが
1100年を越えた辺りからどんどん増えていったそうです。

若干遅れてひらがなの「ん」
1120年、元永3年に書き写された元永本「古今和歌集」に「ん」の形が初めて現れます。
ただ、ここでは若干疑問があって
「ん」の意味で「む」も使われているので
本当に今の「ん」と一緒か分からない。

とはいえ、同じく1120年にそのあとすぐ出た「今昔物語集」
ここで、急にひらがなの「ん」がバンバン多用されて出てくる。

いよいよ、定着となっていきました。

「ん」の音
昔の日本語に「ん」の音があったか
何度か後で再度触れますと書きました。

おそらくこう。
表現は難しいんですが
「ん」の音はあった。
ただ、「ん」を含む言葉ですよ、というのは無かったかもしれない。

例えば、明覚の「悉曇要訣」に出ている例だと
「馬(ま)に乗りて」が「マンノリテ」
「ありなむ」が「アンナン」
「知りなむ」が「シンナン」
後ろに続く言葉の関係でちょっと言いにくいなあ
となったとき「ん」に変化しちゃう。

古事記でいうと
「神」の事を「加微」と書いてあるんだけど
下に何かの言葉がつく場合
神館、となると
「加牟」と変わってしまう。
変化していたと思われる。

こういうのって現代でも良くある
腹の中が「はらんなか」

でも人々の中では、「正式じゃない意識」がある。

「ん」は言うとしても書くのはちょっとやだな

仮借の「ん」がなくて思いきりみんな苦労したので
漢字は無いとしても、記号でもなんでも何とかしそうなもんですよね

でも、随分遅れたのは
書かないで良いなら書かないで済ませたい、との意識が働いている。

例えば「土佐日記」
印刷がない時代なのでみんなが書き写しながら広まっていく。
少しずつ違う土佐日記がある

あらざるなり、のところ
あらざなり、と書かれている本がある。
おそらく、あらざんなり、と読んでいたと思われるが
ん、は書きたくない。
あらざなり、と書いても、あらざんなりのことだと分かるよね。

ちょっと待って
今の言い方おかしいよ
ん、は書きたくない、じゃないでしょ
ん、は当時ないんだから、書けないよね。

どうも、そうじゃない。
紀貫之はあらざるなりみたいに、変化前の表現で書けるところも
敢えて、ん、抜きで書いている。

ちょっと遅れて、清少納言の枕草子では
んを書くのは雅じゃないねと
「ん」にあたる言葉(例えば「む」)を抜くことを推奨している。

江戸時代まで行っても多少残っていて
ふんどしのことは「ふどし」と書いてあったりする

現代人の意識の中でも多少残っている例として
本で上がっていたのが
鳶が鷹を産む
これに振り仮名を打ってくださいと言うと
ほとんどの人が
「とびがたかをうむ」
と書くらしい。
ところが、読んでくださいと言うと
「とんびがたかをうむ」と読む。

話を戻して平安時代から鎌倉時代
雅な世界が終わり、庶民にも書き文字が急激に広まっていく段階をもって
「ん」抜きの感覚が薄れ
話していることと、書き文字が違うなんてめんどくさい。
「ん」も出来たんだったら使いましょうよ、と広まっていった。


残っている疑問が、形。
「ん」と「ン」の形はなんでこうなったの?

ひらがなカタカナは漢字が元になっています、という教科書の説明。
ん、ン、に関する限り当たらない。
元になっている漢字がないわけですから。

結論から言うと分からない。
諸説あるんだけど、どれも決め手にかける
多いのは、無理矢理、この漢字から、というものだけど
そうかなあ

カタカナのンの方は面白いのが新井白石の説。
新井白石ってさすがに学者ですね
こんなとこまで、頭突っ込んでます。

良いとこ突いてます。
サンスクリット語の音がはねる事を意味する空点「・」と
荘厳点「下に緩やかにカーブした形」を組み合わせたんだとする説
例えば「ア」を表す梵字に空点と荘厳点を付け加えると「アン」になります。

私的には
新井白石大好きなので、この説、採用!

お疲れさまでした。
これで「ん」がなかった話はおしまい。

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