[吉岡宿の奇跡]9 それはいくらなんでも

[吉岡宿の奇跡]1 吉岡宿を救いたい
[吉岡宿の奇跡]2 大きな一歩
[吉岡宿の奇跡]3 せがれの気持ち
[吉岡宿の奇跡]4 金のなる木と熊野牛王符
[吉岡宿の奇跡]5 最大の協力者
[吉岡宿の奇跡]6 平八の暴走
[吉岡宿の奇跡]7 いざ出発
[吉岡宿の奇跡]8 もはやこれまでか
の続きです。

仙台へ
代官橋本権右衛門は、独自に却下された理由を調べていた。

藩の上層部は吉岡宿の願書を見た途端、即座に却下した。

このご時世をいいことに職場町内の恵みのためとか、勝手なことを申し立てよって

実は藩の財政は火の車。参勤交代の時期には喉から手が出るほど金が欲しい。
そこに、吉岡宿からの願書
大金を献上するから、その後毎年利子をくれ、とある

金に困った我々の足元をみて、高利貸しをしようという魂胆か、けしからん

そうとらえてしまった。

足元をみてつけこんだんじゃない
もっと前から長年あたため、こつこつ積み重ねてきた事を願い出たに過ぎぬではないか
わしが、誤解を解かねばならぬ
今から仙台へ行く。

代官とは下っぱの役人
重役たちが決定したことを乗り込んで覆そうなどということをすれば、自分の身がどうなるか
役人とは、ともすればことなかれ主義

それでも気持ちを押さえられん、という奇跡のような人物がこの時代にいたとは。

何が奇跡って、これら全てのことが実際に起きた事実だということです。
磯田道史先生が、丁寧に古文書を読み解いて書き上げた、事実

萱場杢(かやばもく)
萱場杢
仙台藩の人なら知らない人は絶対にいない超大物
要は藩のナンバーツー、副総理みたいなもん。
出入司といって藩の財政は一手にこの人が動かしている。

百年に一度の人物と言われている

その前の百年には、鴇田駿河(ときたするが)という人物がおり
天才的手腕で財政を切り回し、伊達政宗の息子、忠宗を大いに助けた

財政の極意を尋ねられ
それでは、良い機会なので皆に聞いてもらいたいと、一同を集め
殿の前で、こう言い放った

財政の極意はただひとつ。大名の勝手な欲に従わぬことのみ

大名かやりたいということに黙って従えば万金を積んでも足りないと
殿の前で言いきるとは。

寛永の頃までには、こんな豪気な勘定役もいた。
仙台藩は幕府からの無理難題の過酷な普請をしのぎ切った

萱場杢は、この鴇田駿河に自分をなぞらえようとした。
確かに財政上の実績は数字だけの結果を見ると、文句のつけようがない。
ただ、取った方法は鴇田駿河とはまるで逆
藩主に黙従し、その分、下の領民に苦を強いた。

なんと、橋本権右衛門
直接、この萱場杢に会いに行った

あかん、そんな無茶苦茶な
もうちょっとだけ、自分を大事にした方が。

そしてこれまた奇跡的
この大物が、下っぱ役人、橋本に会ってくれた。

萱場殿。吉岡宿のご処置、いかがかと存ずる。

(ああ、言っちゃった)

ただここで感情をあらわにするような人物ではない。

あれはだめだ
時節につけこみ、徳取勝手な事。
ゆえに吟味できぬと返したまでだ。

やはり事前の調べの通りだった。

左様ではござりませぬ

どう違うと言うのじゃ

折り入って聞いてみれば、左様ではござりませなんだ。

昨日今日言い出した事ではなく
甚内という男が生涯をかけて小銭をため
臨終の際に、あとを継いで欲しいと息子に託し
息子も引き続いで何十年も
その思いが吉岡宿全体に広がって

粘った。粘り強く語り
最後に萱場の顔をにらみつけた。

数秒の沈黙が流れたあと

やれやれ
奇特なことよの

そういうことならば
大肝煎とひそかに相談してみよ

あっけなかった
あっさりと再吟味を認めた。

情で動く人間ではない。
橋本の言うことはひとつひとつ理に叶っているが、理屈で動く人間でもない
あるのはただひとつ
金がいる

戻って
飛んで帰って、すぐに大肝煎の千坂仲内と会った

はやく、再度、嘆願を出せ
甚内の事を書き添えねばならぬ

なぜ?

この嘆願はにわかに思い立ったものではなく
ずっと以前から、浅野屋の甚内が存命中から考えていたものだ
そう書くのだ

お上というのはの
一度下した裁きをくつがえすには、何か新しいわけをこしらえねばならぬ
萱場様に手柄を作らねばならんのじゃ

さあ、いよいよでしょうか
どうでしょうか

続きはシリーズの次回で

[歴史]シリーズはこちら(少し下げてね)

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